塩田 邦郎 先生のご紹介
第九十六回 紫陽花に質問
なんということだ! 見慣れない数羽のオナガが、うっすらと色付きはじめたサクランボをすっかり落としてしまった。ヒヨドリが来るのは毎年のことで、単独で来て自分が食べる分だけなので被害はそうはなかったから、癪だが仲良く分け合っていた。ところが集団のオナガは、餌として食べるのではなく、楽しむかのように数日で全てのサクランボを落としてしまった。今年はサクランボのジャムを友人に届けようと、瓶も沢山とっておいたのだが、ジャムは断念だ。
梅雨入り宣言を待ちかねたように咲きはじめた庭の紫陽花で思い出すことがある。新たに入室した大学院生から、なぜエピジェネティクスの研究を選んだのですか?という素朴な質問を受けたことだ。その頃、生物学、生理学、生化学など関係する教科書にエピジェネティクスの記載がまだ無かったから、そのことが不思議に思えたのだろうか。
私が大学院に入った1970年代初めは、主要なステロイドホルモンの生合成機構の解明が終わり、ペプチドホルモンの時代に移っていた。LHRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモンと呼ばれる)やTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)という、脳内の視床下部で合成されるペプチドホルモンだ。LHRHは10個のアミノ酸が、TRHは3個のアミノ酸が直鎖状につながったペプチドである。














塩田 邦郎(しおた・くにお)
東京大学名誉教授
1950年鹿児島県生まれ。博士(農学)。79年東京大学大学院農学系研究科獣医学専攻博士課程修了後、武田薬品工業中央研究所、87年より東京大学農学生命科学研究科獣医学専攻生理学および同応用動物科学専攻細胞生化学助教授、98年より同細胞生化学教授。
2016年早稲田大学理工学研究院総合研究所上級研究員。哺乳類の基礎研究に長く携わり、専門分野のエピジェネティクスを中心に、生命科学の基礎研究と産業応用に向けた実学研究に力を注ぐ。2018年より本サイトにて、大学や企業での経験を交え、ジェネティクスとエピジェネティクスに関連した話題のコラムを綴っている。