塩田 邦郎(しおた・くにお)
東京大学名誉教授
1950年鹿児島県生まれ。博士(農学)。79年東京大学大学院農学系研究科獣医学専攻博士課程修了後、武田薬品工業中央研究所、87年より東京大学農学生命科学研究科獣医学専攻生理学および同応用動物科学専攻細胞生化学助教授、98年より同細胞生化学教授。
2016年早稲田大学理工学研究院総合研究所上級研究員。哺乳類の基礎研究に長く携わり、専門分野のエピジェネティクスを中心に、生命科学の基礎研究と産業応用に向けた実学研究に力を注ぐ。2018年より本サイトにて、大学や企業での経験を交え、ジェネティクスとエピジェネティクスに関連した話題のコラムを綴っている。
第八十七回 タイガース染色体
プロ野球の阪神タイガースの優勝について記したのは、第65回コラム「38年後を楽しみに」だった。それからわずか2年後のこの夏、タイガースはリーグ優勝を果たした。プロ野球史上最速とかで喜んで良いように思えるが、「最近よく優勝するから、もうさして珍しくない」「負けるのがタイガースの良いところなのに…」と、なんともつれない感想が届いた。ここで喜んでは虎ファンの沽券に関わる、というわけだ。
先の2023年の優勝時には主力選手の多くは円熟期を迎えていた。2025年からチームを引き継いだ藤川監督は、主力選手をコンディション維持のため積極的に休ませ、若手の支配下登録選手を起用した。裏を返せば、特定の主力選手に頼れる状態ではなかったのだ。その結果、主力選手に怪我が相次いだ他球団と比べて、長期離脱者が出なかった。さらに、ドラフト1位指名の主力選手以外を組み入れた「チーム生え抜き選手」による活躍が印象に残った。リーグ優勝決定の時点で48試合連続無失点のプロ野球記録を作ったのは、2020年ドラフト8位で入団した石井大智投手であった。
米大リーグでは優勝を狙うチームはシーズン途中でも、有力な選手を他球団からスカウトすることは珍しくない。資金力のある球団であれば可能なわけだが、阪神タイガースが豊富な資金力を持っているとは思えない。チーム内の選手でのやりくりが基本になる。