ヒトと微生物の共生社会に科学の力で貢献する、メタゲノム社にインタビュー

マイクロバイオーム研究の社会実装拠点を目指して

メタゲノム株式会社(以下、メタゲノム(株))は、2022年5月に設立された「ヒトと微生物の共生を社会実装する」スタートアップ企業です。今後、理化学研究所(以下、理研)との共同研究によって、マイクロバイオーム解析のデータベース化および解析技術の高度化を実装してゆく同社。創業者である矢嶋 信浩社長と共同研究者の須田 亙先生(理研)のお二人に、創業の経緯やメタゲノム(株)の存在意義や強み、今後の展望についてお聞きしました。

メタゲノム(株)について

メタゲノムヒトと微生物の共生社会に科学の力で貢献する

健康と病気に関係するマイクロバイオーム研究の社会実装に向け、高精細データベース構築および新規解析技術の開発を基礎とした企業として、2022年5月31日メタゲノム(株)を東京都新宿区西早稲田に創業。主に、個々人の健康状態を非侵襲的に評価するシステムの開発、疾患のバイオマーカーの開発、食事やサプリメント、薬の効用を常在菌叢データから評価するシステムの開発を行う。

代表取締役兼研究所長/理学博士
矢嶋 信浩 氏
Yajima Nobuhiro
製薬企業や国立研究機関、食品メーカーの研究所に勤務 研究所長、主席研究員、東京農業大学客員教授、広島大学大学院客員教授を経て、2022年5月、メタゲノム(株)を設立。

食品メーカーの研究所に勤務した時に乳酸菌と出会いました。乳酸菌の多くはプロバイオティクス(適切な量を摂取することで、宿主に健康効果を与える生きた微生物:2014年のWHOによる定義)と位置付けられ、多くの関心が寄せられていました。実際に乳酸菌による整腸作用、免疫機能促進作用を動物実験や臨床研究で確かめることができると、乳酸菌の摂取によって変化する腸内細菌は宿主の健康効果に非常に大切であると考えるようになりました。常在微生物叢がどのような作用機序によって宿主の健常/疾患と密接に関連するのかということに科学的関心があり、ヒトと微生物(常在微生物叢)との共生関係を科学的に深堀することで社会実装を図りたいと考え、メタゲノム(株)の代表取締役に就任いたしました。

メタゲノム(株)研究顧問/マイクロバイオーム研究チーム副チームリーダー/農学博士
須田 亙 氏
Suda Wataru
慶應義塾大学 医学部 講師、国立研究開発法人理化学研究所 統合生命医科学研究センター 研究員を歴任し、現職(マイクロバイオーム研究チーム副チームリーダー)。
Nature, Science, Cellなど著名な国際誌にマイクロバイオーム研究に関する論文を多数発表。

現状汎用されている16S amplicon 解析もV1-2やV3-4など全長1500base程度ある16S配列の一部のみを解析するものでしたが、long read NGSによって完全長の解析が可能になりつつあります。これまで部分的な配列情報しか得られないため属や科レベルでの解釈が限界であった16Sアンプリコン解析が種/株レベルの解像度に進展する可能性があります。このような新規技術をいち早く導入して高解像度の菌叢データに基づくDBを構築してゆくのが重要と考えています。

Interview

創業の経緯

メタゲノム(株)の立ち上げの経緯について教えてください。
矢嶋社長(以下、敬称略):ヒト一個人には約40兆細胞の微生物が生育していることが知られており、これらの常在微生物の集団を常在微生物叢(=マイクロバイオーム)*1 といいます。2005年以降、シークエンス技術の革新的進歩によって次世代シークエンサー*2 が登場し、マイクロバイオームの全体像を知ることができるようになりました。そして今日では、マイクロバイオームは想像以上にヒトの健常/疾患に密接に関連することが明らかになってきたのです。しかし、現在汎用されているメタゲノム解析技術は、微生物種やゲノム構造多様性、可動性遺伝因子*3 を網羅しておらず、改良の余地がありました。

用語注釈
*1 常在微生物叢(マイクロバイオーム): ある特定の環境で生息する一群の微生物の集合体。とくに、ヒトや動物の身体に病原性を示さず常時存在する微生物を常在微生物、それらから構成される集団を常在微生物叢、フローラ、あるいはマイクロバイオータ(Microbiota)という。ヒトの常在微生物叢のうち、もっとも複雑な腸内フローラは約1,000種類の細菌から構成され、その菌数はヒトの細胞数の約37兆個に対して数40兆個とほぼ同じ桁数といわれている。ヒト1人のもつ遺伝子数は約2.2万、常在微生物(腸内微生物)の持つ遺伝子は50万以上と言われています。
*2 次世代シークエンサー(Next Generation Sequencer;NGS): DNAの塩基配列を自動的に解読する装置をシークエンサーと言う。2008年頃より、従来のシークエンサー(ヒトゲノム計画 1991-2004に使用)の~100万倍の解読スピードをもつ種々の超高速シークエンサーが実用化され、これらは次世代シークエンサーと呼ばれています。
*3 可動性遺伝因子: プラスミドやファージ等、ゲノム中または他のゲノム間を移動、修飾できるDNA配列の単位を指します。

メタゲノム解析技術において、課題を感じていたことが創業するきっかけに繋がったのですね。
矢嶋:そうです。我々創業メンバーは、健康と病気に関係したマイクロバイオーム研究の社会実装に向けた拠点となるべき企業を立ち上げたいと考えました。そこで、高精細データベース構築および新規解析技術の開発を基礎としたメタゲノム(株)を創業することにしたのです。

メタゲノム(株)の存在意義

メタゲノム(株)が目指すべき方向や意義はどのようなものになりますか?
矢嶋:方向性としては、健康と病気に関係するマイクロバイオーム研究の社会実装を加速化するために、解析技術を活用した発展的な共同事業開発を行うことで、「病態関連菌群の分離とその機能実証を通して、特許・論文化・創薬等」や「各種食品の効用評価系の開発と新規有用食品の開発」、「健康診断・治療への応用」などの開拓を目指しています。それらを通して、ヒトと微生物との共生社会に科学で貢献していきたいと考えています。

矢嶋社長のこれまでの歩み

多彩なご経歴を持っている矢嶋社長ですが、どのようなことからメタゲノム解析にご興味を持ったのですか?
矢嶋:食品メーカーの研究所に勤務した際に腸内細菌の一種である乳酸菌と出会いました。古くから、乳酸菌の多くはプロバイオティクス(適切な量を摂取することで、宿主に健康効果を与える生きた微生物:2014年のWHOによる定義)と位置付けられ、多くの関心が寄せられてきました。

乳酸菌の健康効果は今では広く浸透しているかと思いますが、当時から研究者様のなかでも関心を集めていたのでしょうか?
矢嶋:研究を始めた2000年頃の私は、腸内細菌との関係が科学的に理解できていない部分も多く、プロバイオティクス効果については半信半疑でした。
ところが、実際に乳酸菌による整腸作用や免疫機能促進作用を動物実験や臨床研究で確かめることができると、腸内細菌が宿主の健康効果に与える要素の一つとして重要な役割を担っていると考えるようになりました。その後、多くの国際論文によって常在微生物叢は宿主の健常/疾患と密接に関連することが報告されるようになったこともあり、現在は乳酸菌やプロバイオティクスは腸内細菌叢に影響を与えるトリガーのひとつであると考えています。

実験や研究の進歩によって、矢嶋社長自身の細菌叢研究への関心がより強いものに変化していったのですね。
矢嶋:このような経験から、常在微生物叢がどのような作用機序によって宿主の健常/疾患と密接に関連するのかということに科学的関心が高まり、ヒトと微生物(常在微生物叢)との共生関係を科学的に深堀することで社会実装を図りたいと考え、メタゲノム(株)の代表取締役に就任しました。

理化学研究所との共同研究について

共同研究を計画されている理研の須田亙先生はどのような方ですか?
矢嶋:理研では生命医科学研究センターマイクロバイオーム研究チームの副チームリーダーをされていて、マイクロバイオーム研究に関する論文を著名な国際誌に多数報告されている先生で、今後は弊社との共同研究も考えています。

理研とは、どのような共同研究を計画されているのでしょうか?
矢嶋:研究テーマは、「ヒト常在微生物叢および周囲環境微生物叢のデータベースと新規解析基盤技術の創出」です。これまでの研究で、常在微生物叢が宿主生理状態に与える広範囲な影響が明らかにされつつあります。本研究では、ヒト常在微生物の解析基盤を高度化するために、ヒト常在微生物叢と周囲の環境微生物のデータを取得し、データベース化および新規解析技術の開発を行なっていきたいと考えています。

メタゲノム(株)の強み・技術的優位性

つぎに、須田先生にお聞きします。今後、メタゲノム(株)との共同研究では、どのような進展を期待しますか?
須田先生(以下、敬称略):私達の強みは、豊富なデータ解析の経験にあります。本共同研究では、それらのノウハウを活かし既存手法をきちんと評価して、信頼性の高い解析技術が構築されることを期待しています。

それは、菌叢解析に用いるプロトコルの選択が重要ということでしょうか?
須田:おっしゃるとおりです。
微生物叢解析は解析する検体の保存、検体からの微生物叢DNAの抽出、シークエンス方法、得られたデータの解析方法のすべてが解析結果に影響します。これらのすべての工程を評価し、信頼できるパイプラインを構築することが極めて大事です。

データベースに関しても、独自開発する必要があるということでしょうか?
須田:既存のデータベースも応用できますが、実は公的データベースにも間違えた情報が登録されていることもあります。
また、16S rRNA遺伝子を例にとると、完全長が登録されていなかったり、ゲノムデータについては完成度の低い情報が欠けているものが登録されている状況があります。つまり、既存のデータベースを修正し、独自に取得した高精度配列を導入するなどの努力は高解像度による解析の実装に必須です。

メタゲノム(株)が目指す高精度な解析には、さまざまな試行錯誤が必要ということですね。
須田:そうですね。
私はこれまで、10年以上を微生物叢解析すなわちメタゲノム解析に費やしてきました。その間のさまざまな試行錯誤や知識など、得たノウハウを今後のメタゲノム(株)との共同研究で活かしたいと思います。

再度、矢嶋社長にお聞きします。理研との共同研究などから、メタゲノム(株)が分析技術の精度・信頼性に注力していることがわかりました。このような信頼のできる解析によって、お客様が得られる利益はどのようなものでしょうか?
矢嶋:弊社が提供する受託解析の結果である図表は、論文投稿にそのまま使用できるばかりではなく、受託解析で得られた結果や生データ(raw data)の全てをお客様へお戻しするので、お客様はそれらを用いて、ご自身で新たに弊社とは別の統計解析(処理)が可能になります。論文審査の過程で、審査員から新たな統計解析(処理)を要求された際に対応しやすいとのご意見も数多くいただきますね。必要な場合は、廉価にて弊社が統計解析(処理)のお手伝いをすることも可能です。
例えば、追加でメタゲノム解析に進むことやアノテーションといった更なる研究解析などです。実際、統計解析をお困りになられているユーザー様もいらっしゃるため、そのようなニーズに応えられればと思っております。

今後の展望

須田先生は今後の菌叢解析技術について、どのような構想を描いていますか?
須田:現在最も汎用されている菌叢解析技術はイルミナ社のシークエンサーを利用したもので、1リードの読み取り塩基長が~300baseしかないのが現状です。
一方で、近年PacBioやONTなどの読み取り塩基長が~10kbaseを超えるいわゆるlong read NGSが性能を伸ばしており、菌叢解析への導入が現実味を帯びてきました。この技術革新によって、複雑系である微生物叢を構成する各細菌やそれを宿主とするphageの染色体の完全長配列が取得できるようになります。また、現状汎用されている16S amplicon解析もV1-2やV3-4など全長1500base程度ある16S配列の一部のみを解析するものでしたが、long read NGSによって完全長の解析が可能になりつつあります。つまり、これまで部分的な配列情報しか得られないため属や科レベルでの解釈が限界であった16Sアンプリコン解析が種/株レベルの解像度に進展する可能性があります。今後は、このような新規技術をいち早く導入して、高解像度の菌叢データに基づくDBを構築していくことが重要と考えています。

矢嶋社長はどのような社会実装を計画していく予定ですか?今後の展望について教えてください。
矢嶋:まずは理研との共同研究体制を構築し、理研が持っている専門性の高い学術的知識と国際標準の解析技術を活かしていきたいです。そのうえで、大学や公的研究機関、産業界研究機関等の研究者を対象に常在菌叢研究の解析支援・技術提供を行い、常在菌叢データを蓄積したいと思います。近い将来の構想としては、蓄積した常在菌叢データを活用し、健康や疾病防止あるいは診断・治療を目指した新たなニーズにお応えできるような当社固有の常在菌叢解析サービスへの応用を行いたいと考えています。

常在菌叢解析サービスの応用として、具体的にどのようなサービスを提供できるようになるのでしょうか?
矢嶋:人間ドックやCRO(医薬品開発業務受託機関)、総合病院、生命保険会社、健康保険組合、食品産業、医療分野等を通して、一般社会人、特に自らの健康に関心が高いエンドユーザーへのニーズにお応えできればと思います。まずは常在菌叢データベース(DB)の改良・更新と再構築を技術背景として、一般の方もご理解いただきやすいように常在菌叢検査結果の説明や解釈を提供し、健康支援に関する領域への菌叢解析事業の浸透を図っていきたいです。

あらためて、最後に将来のビジョンについて教えてください。
矢嶋:コストダウンをさらに拡大していきたいですね。常在菌叢解析技術の高度化と健康医療分野への社会実装の加速化を図り、超高齢化時代にある我が国の健康産業の一翼を担う企業に成長していけたらと思います。

菌叢解析受託サービス

サービス概要

  • 16S rRNA遺伝子解析、およびメタゲノム遺伝子解析の解析受託サービスです。
  • 新鮮サンプル(糞便、スワブなど)、またはDNAサンプルから、NGSを用いた遺伝子配列解析を受託いたします。
  • 豊富なノウハウと圧倒的な解析実績により最適化された、独自プロトコルおよび高精度解析パイプラインがご利用いただけます。

NGSによる細菌叢解析の全体像

NGSによる細菌叢解析の全体像

解析サービスの流れ

分析依頼書へ記入し、サンプルの送付をしていただくだけの簡単手続きで、ご利用いただけます。

解析サービスの流れ

解析サービスの価格情報

CatNo. 製品名 単位 価格
(税抜き)
16S rRNA解析
META-16S-1 DNA抽出+16s配列のデータ生産(3,000リード以上/サンプル)+データ解析 新鮮サンプル/1検体あたり ¥42,000
META-16S-2 16s配列のデータ生産(3,000リード以上/サンプル)+データ解析 DNA/1検体あたり ¥34,000
META-16S-3 DNA抽出+16s配列のデータ生産(3,000リード以上/サンプル) 新鮮サンプル/1検体あたり ¥36,000
META-16S-4 16s配列のデータ生産(3,000リード以上/サンプル) DNA/1検体あたり ¥28,000
META-16S-5 細菌叢16sデータ解析のみ 1検体あたり ¥19,000
メタゲノム解析サービス(3Gb)
META-MET3G-1 DNA抽出+メタゲノム配列データ生産(~3Gb/サンプル)+データ解析 新鮮サンプル/1検体あたり ¥185,000
META-MET3G-2 メタゲノム配列データ生産(~3Gb/サンプル)+データ解析 DNA/1検体あたり ¥140,000
META-MET3G-3 DNA抽出+メタゲノム配列データ生産(~3Gb/サンプル) 新鮮サンプル/1検体あたり ¥170,000
META-MET3G-4 メタゲノム配列データ生産(~3Gb/サンプル) DNA/1検体あたり ¥125,000
DNA抽出サービス
META-DNAPREP 試料からの微生物叢DNA抽出 新鮮サンプル/1検体あたり ¥16,000
アクセサリー
META-STOOL 糞便採取キット(RNA Later入り) 1本 ¥2,800
META-SALIVA 唾液採取キット(RNA Later入り) 1本 ¥2,800

※価格は2023年6月現在のものです。

この記事でご紹介したサービス・製品

より詳しい情報などは下記リンクよりサービス・製品詳細ページをご覧ください。

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