東京大学名誉教授
1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。
第五十七回 研究費(2)桜の酔い
神楽坂で集まりがあり、その帰り道でふと松井秀喜選手の大型パネルをエンゼル・スタジアムで眺めたことを思い出した。大谷、ダルビッシュ選手など米大リーグ選手などを擁する2023ワールド・ベースボール・クラシック1次ラウンド、日韓戦の夜のことだ。
学生と共にアナハイムで開催された米国細胞生物学会 (The American Society for Cell Biology、ASCB)に参加した2010年頃、学生の一人が優れた発表に贈られるASCBの賞(award)を獲得した。“award”という語は、審査の上で与えられる幅広い対象にも用いられ、研究費(グラント、grant)獲得の場合にも用いられる。
米国で生命科学関連の最大の研究費は国立衛生研究所(National Institutes of Health、NIH)によるものだ。初めて独立した研究者としての一歩がNIH awardを得て始まる。NIH から研究費を得ることを、NIH awardを得るというのだ。“研究費が当たった”と、まるで宝くじ当選のようなニュアンスで語られる日本の感覚とは異なる(自分の努力や力でというより、運よく、という言い方が好まれる日本社会の背景があるから、言葉どおりには受け取れないが)。