金田研究室のラボメンバー・研究内容について詳しくお聞きしました
昨年から新しく加わった会員特典の「GeneF@Nラボへようこそ!」。GeneF@N会員なら誰でも、ご自身が所属されている研究室のことを日本全国へ思う存分アピールできる会員特典になります。(詳細はこちら)
待望の三回目のGeneF@Nラボは、千葉大学大学院医学研究院 分子腫瘍学 金田研究室の皆さん。貴重なお話を沢山伺うことができたので、前編(研究内容紹介)と後編(研究施設・イベント)に分けてお届けします!
金田研究室取材レポートIndex:
エピゲノムとは、ゲノムDNA塩基配列そのものではなく、その修飾要素として細胞分裂の際に娘細胞に維持・伝達される情報のことで、発生・分化において遺伝子発現の制御に重要な役割を果たします。その代表的な例として、ゲノムDNA塩基配列中のCpG配列におけるシトシン(C)のメチル化が挙げられます。当研究室では、ゲノム情報を制御し細胞の運命を決定するゲノム修飾(=エピゲノム)と、その異常による癌発生について、分子腫瘍学の研究を行っています。
研究室のご紹介
研究内容
金田研究室では、癌エピゲノム研究を中心テーマに、次の4つのプロジェクトを大きな軸として研究を進めています。
①「臨床標本のエピゲノム網羅的解析による疾患本態解明」
胃癌はDNAメチル化状態の異なる複数の分子サブタイプから成ることを先駆けて報告し、EBV陽性胃癌が超高メチル化を示す独立したサブタイプであることを証明しました。それ以外の癌腫についても病原体感染や遺伝子変異など様々な外的・内的な要因と相関する分子サブタイプに層別化しています。
②「疾患・環境モデルとNGSを駆使した高次元エピゲノム現象の解明」
次世代シーケンサーやアレイを用いて、DNAメチル化やヒストン修飾、クロマチン構造などのエピゲノム情報を網羅的に取得し、さらにHi-Cなどの手法でゲノムの立体構造も解析しています。病原体感染や低酸素など、癌に関わる環境条件を再現したモデルを使い、時間の経過も含めた「4次元エピゲノム変化」の解明も進めています。特にEBウイルスは、本来不活性な領域を活性化し、癌原遺伝子の発現を促す新たな発癌機構「エンハンサー侵襲」を引き起こすことが示されました。
③「エピゲノム関連因子の機能解析による生命現象の本態解明」
エピゲノム修飾を担う酵素やその複合体について、詳細な機能解析を通じて生命現象の仕組みを明らかにしています。たとえば、DNA脱メチル化に関与するTET2はEBウイルス感染によって発現が低下し、異常な高メチル化を引き起こします。また、ヒストンH3K4のメチル化酵素であるKMT2(MLL)ファミリーは白血病と関連し、特にSETD1Aは細胞の生存やゲノム安定性の維持に重要であることが分かってきました。こうした特性を新たな治療標的とする研究が進められており、PROTACやCRISPR-Cas9技術を用いた解析も行われています。
④「エピゲノム異常の蓄積による疾患発症リスク研究」
IGF2遺伝子のインプリンティング異常(LOI)を用いた研究では、正常に見える組織に蓄積したエピゲノム異常が発癌リスクを高める要因であることをいち早く証明し、治療標的にもなることを示しました。胃粘膜においても、ピロリ菌など病原体感染や、喫煙・飲酒などの生活習慣によりDNA異常メチル化が高度に蓄積し、一次胃癌の発癌リスクとなることを証明するなど、予防医学への応用を進めて参ります。
最新の論文
1. Mano Y, Matsusaka K, Seki M, Kita K, Fukuyo M, Rahmutulla B, Usui G, Fujiki R, Urabe M, Abe H, Matsubara H, Ushiku T, Seto Y, Fukayama M, Kaneda A. DNA-hypermethylated human gastric cancer circumvents apoptosis in the absence of TP53 mutation.J Pathol, epub 2025 Oct 9. doi: 10.1002/path.6480.
2. Ning M, Hoshii T, Nakagawa T, Usui G, Izumi S, Hayashi K, Matsumoto M, Rahmutulla B, Fukuyo M, Abe H, Ushiku T, Kaneda A. Non-catalytic role of SETD1A promotes gastric cancer cell proliferation through the E2F4–TAF6 axis in the cell cycle.Cell Death Dis.,2025 Aug; 16: 639. doi: 10.1038/s41419-025-07976-4
3. Mizokami H, Okabe A, Choudhary R, Mima M, Saeda K, Fukuyo M, Rahmutulla B, Seki M, Goh BC, Kondo S, Dochi H, Moriyama-Kita M, Misawa K, Hanazawa T, Tan P, Yoshizaki T, Fullwood MJ, Kaneda A. Enhancer infestation drives tumorigenic activation of inactive B compartment in Epstein-Barr virus-positive nasopharyngeal carcinoma.eBioMedicine, 2024 Apr; 102: 105057. doi: 10.1016/j.ebiom.2024.105057.
4. Kanaoka S, Okabe A, Kanesaka M, Rahmutulla B, Fukuyo M, Seki M, Hoshii T, Sato H, Imamura Y, Sakamoto S, Ichikawa T, Kaneda A. Chromatin activation with H3K36me2 and compartment shift in metastatic castration-resistant prostate cancer.Cancer Lett., 2024 Apr; 588: 216815. doi: 10.1016/j.canlet.2024.216815.
5. Usui G, Matsusaka K, Huang KK, Zhu F, Shinozaki T, Fukuyo M, Rahmutulla B, Yogi N, Okada T, Minami M, Seki M, Sakai E, Fujibayashi K, Tsao SKK, Khor C, Ang TL, Abe H, Matsubara H, Fukayama M, Gunji T, Matsuhashi N, Morikawa T, Ushiku T, Yeoh KG, Tan P, Kaneda A. Integrated Environmental, Lifestyle, and Epigenetic Risk Prediction of Primary Gastric Neoplasia Using the Longitudinally Monitored Cohorts. eBioMedicine, 2023;98:104844. doi: 10.1016/j.ebiom.2023.104844.
金田教授のご紹介
金田 篤志教授のプロフィール

金田 篤志教授の略歴
2025年4月~
千葉大学医学部附属病院がんゲノムセンター センター長(兼任)
2023年10月~
千葉大学健康疾患オミクスセンター, センター長(兼任)
2013年5月 – 現在
千葉大学大学院医学研究院, 分子腫瘍学, 教授
2006年7月 – 2013年4月
東京大学先端科学技術研究センター, ゲノムサイエンス分野, 特任准教授
2009年10月 – 2013年3月
国立研究開発法人科学技術振興機構, さきがけ研究員(兼任)
2004年4月 – 2006年6月
Johns Hopkins University, Department of Medicine, Post-doctoral Fellow
2000年4月 – 2004年3月
国立がんセンター研究所, 発がん研究部
1999年4月 – 2000年3月
東京大学医学部, 附属病院分院外科, 助手
・専門分野:癌、エピジェネティクス
金田教授インタビュー
今回、金田研究室の代表として快くインタビューに応じてくださったのは、教授の金田 篤志先生です。では、早速お話を伺っていきましょう。
■日頃行っている研究の面白さやその魅力について教えてください。

■金田研究室ならでは!といったアピールポイントはありますか?

■金田研究室では、基礎研究室の中でもとても人数の多い印象を受けました。研究員の皆さんはどのような構成なのでしょうか?

※研究員メンバーについてはこちら
■金田先生が目指すべき未来はどのようなイメージを描いているのでしょうか?

1つは、発生してしまった癌に対し、エピゲノム異常を標的とした癌治療を構築することで、世界中でその開発が行われています。もう1つは、癌の発症前ですが、癌が発生しやすくなってしまった組織を、発生しにくい元の正常な状態に回復させることです。
現時点では、組織のエピゲノム状態からどれくらい癌発生のリスクが高くなってしまったかを判定するまでですので、定期的な検査による経過観察が必要で、患者さんの負担になりますし、不安を抱えながらの経過観察となります。最終目標の1つは、組織を発癌リスクの少ない元のエピゲノム状態に回復させることであり、そうした未来が30年後には実現できるのではないかと期待しています。私の引退後になりますが(笑)、若い研究者の皆さんがきっと叶えてくれると信じています。
ラボメンバーの礒貝さんと稲崎さんにインタビュー
次に、ラボメンバーを代表して、礒貝さんと稲崎さんのお二人にラボ生活の1日について紹介していただきました。
博士課程4年 礒貝さん

次にある日の礒貝さんの1日をご紹介します!

7:00:起床
8:30:ラボ入室 計算機サーバーの進捗状況をチェック(新しいデータが生成されているのを見て、ホッと一安心)
10:00:細胞培養室へ(細胞培養を開始、細胞たちが元気か顕微鏡で観察する)
11:00:次世代シーケンサーの出力結果の解析(培養の待ち時間を使って、次世代シーケンサーの膨大なデータと格闘。新しい発見があるかもしれないという期待感をもって、集中して解析を進める)
12:00:昼休み 同僚と大学内のレストランへ(今日の研究の進捗や、週末の予定など、たわいもない話をしながらリフレッシュ。食後にはコーヒーを淹れて、午後の仕事に備える)
13:00:本日のメイン実験!「Hi-Cのサンプル調製」(染色体の立体構造を解析するためのサンプル調製開始。手元に集中し、一つひとつのステップを丁寧にこなしていく時間!)
19:00:明日の実験準備(実験ノートに今日のデータや考察をまとめ、明日の実験の計画を立てる)
20:00:帰宅
■礒貝さんの専門は血液内科とお伺いしましたが、なぜその分野を選ばれたのですか?

■医師としての勤務に加えて、ラボでの研究も並行して行っていますが、両立についてはご自身でどのように感じていらっしゃいますか?

博士課程1年 稲崎さん

東京都出身の31歳です。呼吸器内科医で、今年で医師7年目になります。趣味は海外旅行で、新しい文化や価値観に触れて、知見を広めることが好きです。
医師としては肺癌診療に興味があり、金田ラボの門戸をたたきました。現在は、小細胞肺癌が治療抵抗性を獲得する分子機構の解明に取り組んでいます。

5:00:起床
6:00:ラボ入室(メールチェックおよび本日の研究の予定を確認。研究開始or論文を読む)
8:00:朝食
8:30:午前中の実験を開始(細胞の継代など)
12:00:お昼休み
13:00:午後の実験開始(実験と併せて、夕方のミーティングの準備も行う)
16:30:ミーティング(1週間の実験結果および今後の予定の確認)
18:00:ラボ退室
18:30:帰宅
■稲崎さんが呼吸器内科を目指された理由について教えていただけますか?



お二人ともご多忙の中、快くインタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました。 忙しい日常のなか、診療と研究の両立に真摯に取り組まれるお二人の姿がとても印象的でした。今後のご活躍を心よりお祈りしております。👍
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長年にわたり消化器系の癌に関する研究を続けてきた中で、癌発生のメカニズムなど、さまざまな興味深い事実が明らかになってきました。私たちのこれまでの研究に関心を寄せてくださる研究者の方々も増え、それをきっかけに研究のネットワークが着実に広がっていることを実感できるのは、大きな喜びですね。