株式会社 Rhelixa(レリクサ)インタビュー
国内最高水準のエピゲノム解析拠点を目指す
株式会社Rhelixa(以下、レリクサ)は、2015年2月に設立された東大発スタートアップ企業です。
同社は次世代シーケンサー(NGS)解析の受託サービスを提供しており、学術研究や産業応用をサポートしています。
代表取締役は、東京大学大学院の博士課程在籍中にレリクサを立ち上げた仲木竜博士。
仲木代表に、レリクサを創業した経緯やNGS 解析を委託するメリット、そしてレリクサの目標などについて伺いました。
また、同社の小田真由美博士、内海貴夫博士にもお話を伺いました。あわせてご覧ください。
仲木 竜 氏(工学博士)
東京大学大学院工学研究科博士課程修了。計算生物学者。東京大学先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス分野 油谷研究室にて学位(工学博士)を取得。エピゲノム解析を専門とする。
解析だけでなく研究デザインから論文化までサポート
ー 仲木代表は大学院博士課程在籍中(東京大学先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス分野 油谷研究室)にレリクサを創業されたと聞きました。当時からエピゲノムが研究テーマだったのですか?
そうです。当時はエピゲノム制御因子の相互作用を読み解くためのアルゴリズム開発を主にやっていました。もともとは、「細胞はあらゆる刺激に対応できる」ことに興味がありました。細胞固有の機能はエピゲノムが決めているのですが、例えばヒトの転写因子は2000種類くらいしかないのに、細胞は無限に近い種類のレスポンスを実現できます。そのギャップは何だろう、ということをずっと考えていました。それに問いに対して私が持った仮説は、転写因子一つひとつだけに注目するのではなく、組み合わせが重要だろうということでした。その仮説のもと、大学院ではエピゲノムの制御因子間の相互作用の変化を読み解くアルゴリズムを開発し、がん細胞やES細胞、iPS細胞の研究に応用しました。
ー そこから会社を立ち上げようと思ったきっかけは何だったのですか?
エピゲノムデータを容易に取得できる将来を考えると、現状ではどこかで解析サイドがパンクすると思ったからです。当時の私ですら、同時に10もの共同研究を抱えていたときもありました。そうなると、解析データを共同研究先に返すのにどうしても時間がかかってしまいます。もちろん自分たちの研究もあります。このままでは、エピゲノム研究全体の発展が遅くなってしまうのではないか、と危惧していました。そこで、独立したエピゲノム研究拠点を作りたい、というモチベーションが出てきたのです。
ー 独立したエピゲノム研究拠点として会社にしたのはなぜですか?
大学などの研究室では学生という人材が流動的で、データ解析のスピードや品質を一定に保てない事情があります。会社として人材を確保することで、安定的にしっかりとした精度の解析結果を決まった納期で納品できるようにしたいという考えがありました。
他にも二つ理由があります。まずは研究費についてです。申請して獲得できる大きめの研究費(科研費など)は、がんをはじめとする致命性の高い病気に紐づくテーマのものが多く、どうしても分野が限られる傾向にあります。一方で、人は致命性の高い問題に対してのみ、課題を抱えているわけではありません。
そこで、独自に研究費を獲得するルートとして、産業と基礎研究を組み合わせてその相乗効果で新たな価値を生む仕組みを作りたい、ということでした。例えば、MDの方々は、臨床と基礎研究を組み合わせることで、相乗的に独自の価値創出を実現しています。その「臨床」を「産業」に置き換えることで、これまでにないスタイルの研究が実現できると考えました。
また、産業と基礎研究を結び付けることで、non-MDの人間も基礎研究以外のところでお金を得る手段ができ、結果として、経済的な不安なく腰を据えて基礎研究に取り組めるようになってくるのではないかと考えました。
ー では、レリクサの強みを教えてください。特に、大学などの研究機関が民間会社に委託するメリットとして何があるのでしょうか?
まず、高クオリティな解析データを決まった納期でお返しできることです。当社には現在アルバイトも含めて24名の従業員がいますが、7名はPh.D.取得者で、2名は取得に向けて各自の研究をしています。大学に所属しながら当社で働いている社員も3名います。
アカデミアレベルの研究ができ、かつ期日までにお返しできるのはレリクサしかできないと自負しています。Ph.D.取得者が多いので、お客様の希望通りに解析するだけではなく、研究デザインから考え、生物学的な解釈や論文化までサポートできる人材を揃えているのも強みです。こうした優秀な社員は、お客様である大学の先生たちから紹介していただくことも多く、アカデミアから一定の信頼をいただいている証でもあると思います。
もちろん、独自の解析サービスも提供しております。ウェットな部分については、他の施設とも連携しながら、業界の中でもかなり低価格で請け負っています。
ー これまでにどのような実績を積み重ねてきましたか?
共同研究ということで社名を掲載いただいた論文が5報あります。一般的に受託解析業者の名前は載らないことがほとんどですが、研究デザインからサポートさせていただいたことで、先生たちのご厚意で掲載いただきました。
論文の内容は、NGS解析を担当したものと、NGS解析をするための計算技術の開発そのものの2種類があります。また、自社で独自アルゴリズムを開発しており、論文として投稿する予定です。出願中の特許も1件あります。
ー 最後に、レリクサとしての目標を教えてください。
まずは1~2年くらいのスパンで、国内最高水準のエピゲノム解析拠点にするのが短期的な目標です。アカデミアの先生から、「NGS解析ならレリクサに頼めば間違いない」というお声を頂けるような評判にしたいと思っています。中長期的には、海外にもレリクサの名前が届くようにしたいと思っています。
そのためには自社内の努力だけでなく、いろいろな研究機関の先生たちとの連携が必要です。データ解析の受託だけでなく、技術開発も一緒に取り組んでいくことができれば、エピゲノム研究はもっと発展すると思います。私たちと一緒に面白いことをやりたいと考えている方がいらっしゃれば、ぜひ声をかけていただきたいですね。
小田 真由美 氏(獣医学博士)
東京大学、アメリカへの留学、慶應義塾大学などを経て2019年にレリクサに入社
いろいろな研究をサポートしたいために入社
ー レリクサに入社した経緯を教えてください。
学生時代は東京大学農学生命科学研究科の塩田邦郎先生の研究室に所属して、胎盤幹細胞とクローン動物におけるエピジェネティクス研究で学位を取りました。エピジェネティクスの網羅的解析、つまりエピゲノム研究の需要を感じて、ポスドクではAlbert Einstein College of Medicine においてDNAメチル化をマイクロアレイで網羅的に解析する方法の改良に取り組み、同時にコンピューターによる解析方法を学びました。メチル化される対象のCpG配列はゲノム上に非常に多いのでデータ量が多くなります。エピゲノムを効率的に解析するにはどこに注目すればいいかという戦略をよく考えていました。
帰国後は慶應義塾大学医学部・循環器内科の特任助教を経て、坂口光洋記念講座テニュアトラック・プロジェクト助教として様々な診療科の先生方と共同研究を行いました。医学領域でもエピゲノムが注目されていますが、当然診療科ごとに注目する細胞種が違います。患者さんの細胞など、貴重なサンプルを用いた医学研究に触れ、解析を行っていくうちに細胞の種類に注目したエピゲノムの面白さがわかってきました。
そのうちに、自分で研究室を持つという選択肢の他に、エピゲノム解析手法によってより自由に研究の支援がしたいという気持ちが強くなりました。そう考えていたころ、たまたまレリクサで短期間働く機会があり、大学を超えていろいろな先生方・企業のエピゲノム研究をサポートできることを知ってたいへん興味を持ち、レリクサに入社しました。
ー 社内の雰囲気はどうでしょうか?
私は入社して約1年半ですが、会社自体が5年目と若く、いろいろな立場の人と上下関係を意識することなく議論できる環境はとてもいいと思います。私自身も研究対象の違いで知らないことが多くあり、別の分野から入ってきた同僚と自由に知識の交換ができて興味深いです。
ー 小田さんの考えるエピゲノム研究の面白さは何でしょうか?
発生プロセスや病気を考えたとき、遺伝子だけで約2万以上もあり、その制御方法も複数あると考えられているのですが、その関係をパズルのように解いていくのが面白いと思います。特にエピゲノム研究は解析技術だけでなく、どのサンプルで解析するかという、解析技術と材料のデザインが重要です。案件ごとに毎回勉強をさせていただく立場ですが、知識を蓄積していくことで様々な研究の力になれると考えています。例えば、発生学をずっとやってきた研究者が見ていることと、私たちがエピゲノムの視点から見ていることは、少し違うはずです。新しい視点を提供して、今までわからなかったことを明らかにするのはとても面白いと感じています。
内海 貴夫 氏(理学博士)
首都大学東京理工学研究科生命科学博士課程修了、博士号を取得(理学)。
数社にて次世代シーケンスラボマネージャー、遺伝子検査および細菌叢検査の構築に携わったのち、レリクサへ。
「技術オリエンテッド」で挑む
研究開発部では社員一人ひとりが専門性を発揮してお互いに意見をぶつけ合い、全員の知識をうまく使って仕事をしていると自信をもって言えます。当社には若い人もいれば、私と同年代の人もいますが、年齢による上下関係はありません。当社にはPh.D.取得者が多く、以前は大学教員だった方や、現在でも大学と当社の両方に所属している方もいます。そのため、ただ解析するだけでなく、学術研究のことを考えて研究デザインからウェットな実験なども提案できるのが当社の大きな強みです。
ご依頼されるエピゲノム解析は、基礎研究から産業応用まで幅広くありますが、多くの経験を積んできた社員が力を合わせて請け負っています。解析の考え方を重視した「技術オリエンテッド」で仕事に向き合っています。そこは当社ならではのスタンスだと思います。
専門の解析チームが研究のデザインから、実験・情報解析、生物学的な解釈の発見、論文化までをハンズオンでサポートするだけでなく、研究プロジェクトごとの目的や予算、期間に応じて最適なプランをご提案するコンサルタントサービスも提供している会社です。
データの取得や解析だけに留まらず、解釈やその後のプランニングまでを合わせてサポート可能であることが同社の最大の特長です。
期待通りの解析結果が得られるか不安・・・
目的に沿った適切な解析手順がわからない・・・
解析結果をどう解釈すれば良いかわからない・・・
解析担当者のリソースが不足している・・・
などの、研究現場のリアルな課題を解決いたします。
エピゲノムで、生き物の当たり前を超えていく。
生命情報を読み取る技術は飛躍を遂げつづけ、あと数年のうちにヒトゲノム解読コストは万円以下になると言われています。しかし、こうして得られた膨大な生命情報データを処理し、解析するための人材が不足しているのが現状です。だからこそ、私たちレリクサは目的に応じた実験デザインからデータの解析、生物学的な解釈の発見や論文化まで、幅広くコンサルティングを行い、限られた予算で最大の効果を上げるために研究開発を支援しています。
同時に、私たちは人々が身体的にも精神的にもより健康に、より幸せに暮らしていける社会の実現を目指しています。
そのような社会を実現するためのカギは『エピゲノム』にあると私たちは確信しています。
Mission 生命の仕組みを読み解き、ヒトの生活を向上させる技術を創る。
Vision 私たちは、以下のビジョンを持って事業に取り組みます。
1.エピジェネティクス分野において世界一の研究開発力を持った会社を目指します。
2.エピジェネティクス分野の「学術発見」を、産業で活用できる「技術」へと繋げることを目指します。
3.エピゲノム情報を社会で活用する基盤を生み出すことを目指します。
– 同社ホームページより引用-