【第1回】ご愛用者様に聞いてみました! SeqCapユーザーインタビュー

SeqCapユーザーインタビュー

SeqCapユーザーインタビューへ快く応じて下さったのは、
国立遺伝学研究所 総合遺伝研究系 人類遺伝研究部門 助教 中岡 博史先生(前列左)と研究室の皆様です。

今回はCell Reportsに論文掲載された子宮内膜症のゲノム解析研究成果をベースに、本研究で中核的に使用されたSeqCap ターゲットエンリッチメントシステムの紹介とご採用いただいたきっかけ、ご使用結果などのお話をお聞きしました。

中岡先生のご経歴

2003年 3月 京都大学農学部 生物生産科学科 卒業
2005年 3月 京都大学大学院農学研究科 応用生物科学専攻 修士課程修了
2008年 3月 京都大学大学院農学研究科 応用生物科学専攻 博士課程修了 博士(農学)
2008年 4月 京都大学大学院農学研究科 応用生物科学専攻 動物遺伝育種学研究室 研究員
2008年 5月 東海大学医学部 基礎医学系 分子生命科学 特定研究員
2010年 10月 国立遺伝学研究所 総合遺伝研究系 人類遺伝研究部門 特任研究員
2015年 4月 国立遺伝学研究所 総合遺伝研究系 人類遺伝研究部門 助教
    現在に至る
論文情報

子宮内膜症および正常子宮内膜における癌関連遺伝子異変のクローン性増殖と多様化
掲載論文『Cell Reports ARTICLE Volume24, ISSUE7, P1777-1789, AUGUST14, 2018』


Q1, 研究テーマについて教えてください。

中岡先生
私が所属する国立遺伝学研究所人類遺伝研究部門は、次世代シーケンサーで得られる膨大な塩基配列情報を医学研究に活用し、ヒト疾患の理解、治療法の開発に寄与することを目指しています。疾患ゲノム研究は原因となる遺伝子変異、多型を検出することが第一の目標になりますが、DNA配列の変化がどのような分子メカニズムを介して疾患発症リスクにつながるのかを明らかにする研究が重要になります。ゲノムワイド関連解析で同定された疾患感受性SNPsの約90%は、タンパク質をコードする遺伝子上ではなく、遺伝子間領域あるいはイントロンに位置することが知られています。これらSNPsは近傍遺伝子の転写制御機構に影響を及ぼすことで、疾患発症リスクにつながっている可能性が考えられます。私達の研究室では、転写因子結合からクロマチン相互作用を介して遺伝子発現に至る一連の転写制御プロセスについて、次世代シーケンサーを駆使した機能解析を行い、疾患発症メカニズムを明らかにすることを目指しています。

Q2, SeqCapを採用いただいたきっかけを教えてください。

中岡先生
疾患ゲノム解析では多数検体について関心のある遺伝子群や領域のDNA配列決定を行い、疾患表現型と関連する遺伝子変化を検出する必要があります。標的領域のDNAを選択的に回収する方法として、PCRを用いる手法が代表的ですが、マルチプレックスPCRではプレイマー同士の相互作用やアレルドロップアウトが懸念されるため、ハイブリダイゼーションを用いた手法が好ましいのではないかと考えていました。ただ、ハイブリダイゼーション試薬は反応あたりの単価が高額であることが問題でした。私達がSeqCap EZシステムを導入した最も大きな理由は、ハイブリダイゼーションの行程で多検体を混合するプレプール法によって、ハイブリダイゼーション1反応で多数検体の標的領域を選択的に回収できる点でした。私達は96検体をプレプール法に基づくハイブリダイゼーション1反応で処理しておりますので、ハイブリダイゼーションにかかる費用と労力が96分の1に削減できています。

Q3, SeqCapを用いた研究内容について教えてください。

中岡先生
私達は新潟大学医学部産科婦人科学教室の榎本隆之先生との共同研究として、子宮内膜症のゲノム解析に取り組んでおります。その研究においてSeqCap EZシステムを重点的に用いています。最新の研究成果がCell Reportsに掲載されました。

 子宮内膜症は生殖年齢にある女性の約10%に認められる疾患です。その発症原因は未だ明らかにされていません。月経困難症や不妊との関連も指摘されていて、少子化や女性の社会進出の障害として社会的損失が大きい疾患です。子宮内膜症の病理学的特徴は、卵巣や腹腔などの病変部位において、子宮内膜様組織が認められることです。このことから、月経時に剥がれ落ちた子宮内膜の一部が卵管を逆流し、卵巣や腹腔に生着・増殖することで、子宮内膜症が発症すると考えられています。

 私達は子宮内膜症発症機序を明らかにするために、卵巣に生着した子宮内膜症上皮細胞に生じているゲノム変化を網羅的に同定しました。また、正常子宮内膜上皮細胞におけるゲノム変化にも着目しました。結果として、PIK3CAやKRASを含むがん遺伝子に体細胞変異が多数検出されました。また、次世代シーケンサーの特性を利用して、変異を保有する細胞のクローナリティについて検討したところ、子宮内膜症上皮においてがん遺伝子における変異を保有する細胞はクローナルに増殖していました。さらに興味深いことに、正常な子宮内膜上皮細胞においても、PIK3CAやKRASなどのがん遺伝子に多数の体細胞変異が認められました。正常な子宮内膜上皮における変異はクローナリティが低いことが分かりました。つまり、正常子宮内膜上皮では、がん遺伝子に変異を保有する細胞と保有しない細胞がモザイク状に混在していることが明らかになりました。私達は正常な子宮内膜がDNAレベルでモザイクな状態を呈する原因に関心を持ちました。

 子宮内膜は深部の基底層と子宮腔に近い機能層に分かれ、機能層は卵巣ホルモンの影響を受けて、増殖と脱落という周期的変化を繰り返します。子宮内膜機能層は月経周期に応じて剥落・増殖を繰り返す、高い再生能を有する組織です。我々は正常な内膜上皮細胞が管状構造を呈して発達していることに着目し、内膜上皮細胞を管単位で分離する実験手法を確立し、単一腺管レベルという最小機能単位でDNAシーケンスを行いました。

 その結果、正常な子宮内膜から採取した腺管において、PIK3CAやKRASを含むがん遺伝子に体細胞変異が検出されました。驚くべきことに、各腺管で保有する変異はクローナルな状態に達していましたが、腺管ごとに異なる体細胞変異を保有していました。つまり、個々の腺管が異なる体細胞変異を有するため、腺管の集合体である内膜組織ではゲノムがモザイク状態を呈することが分かりました。

 これらの知見は、モザイク状ゲノムを呈する子宮内膜が月経血逆流を介して卵巣に生着・増殖する過程で、KRASなどがん遺伝子に変異を有する腺上皮細胞が生存に有利となり、クローナルに増殖した結果として、子宮内膜症が発症するという発症メカニズムを示唆していると思います。

Q4, SeqCapを使った感想をお聞かせください

中岡先生
実験プロトコルも簡潔に整理されていて、技術員がルーチンとして実施できるため、多数検体を取り扱うヒト疾患ゲノム研究に適していると感じています。私達は複数のプロジェクトでSeqCap EZシステムを用いたシーケンス実験を行っていますが、カバレッジの均一性が高く、安定していました。SeqCap EZシステムのプローブ設計がすぐれているためだと思います。

Q5, SeqCapについて今後改良や改善を希望する点はございますか?

中岡先生
私達は標的領域を自由にカスタムデザインできるSeqCap EZ Choiceを利用しています。現在、ターゲットサイズが7Mb以下と200Mb以下の2種類のプラットフォームが提供されていますが、ヒト疾患解析ではゲノムワイドなアプローチで標的を絞り込んだ後に、限られた数の遺伝子について数百検体を越えるサンプルを用いてヴァリデーションする実験が求められます。そのようなヴァリデーション実験に対応できるよう、より小さな領域(数百Kbなど)で安価なプラットフォームを提供していただけるとありがたいです。

中岡先生のインタビュー記事でご紹介させていただきました、SeqCapプローブのメリットである「プレプール法」については、下記をご参照ください。

プレプール法

ハイブリダイゼーションの工程で複数のサンプルを混合する「プレプール」法を適用するとサンプルあたりのコストを下げることができます。各塩基あたりの必要カバレージを考慮して、プールするサンプル数を決定してください。
※ SeqCap Epi システムはプレプール法に対応しておりません。
ユニークなインデックスアダプターをそれぞれのサンプルに独立に結合させてライブラリを調製し、それらを混合してハイブリダイゼーション(キャプチャー)を実施します。データ解析の段階でインデックスごとにデータを振り分けます。

複数のライブラリーを混合してハイブリ(キャプチャー)する「プレプール法」は、シーケンスのコスト削減が可能です。

 

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