SeqCapユーザーインタビュー
SeqCapユーザーインタビューへ快く応じて下さったのは、
国立遺伝学研究所 総合遺伝研究系 人類遺伝研究部門 助教 中岡 博史先生(前列左)と研究室の皆様です。
今回はCell Reportsに論文掲載された子宮内膜症のゲノム解析研究成果をベースに、本研究で中核的に使用されたSeqCap ターゲットエンリッチメントシステムの紹介とご採用いただいたきっかけ、ご使用結果などのお話をお聞きしました。
中岡先生のご経歴
2003年 | 3月 | 京都大学農学部 生物生産科学科 卒業 |
2005年 | 3月 | 京都大学大学院農学研究科 応用生物科学専攻 修士課程修了 |
2008年 | 3月 | 京都大学大学院農学研究科 応用生物科学専攻 博士課程修了 博士(農学) |
2008年 | 4月 | 京都大学大学院農学研究科 応用生物科学専攻 動物遺伝育種学研究室 研究員 |
2008年 | 5月 | 東海大学医学部 基礎医学系 分子生命科学 特定研究員 |
2010年 | 10月 | 国立遺伝学研究所 総合遺伝研究系 人類遺伝研究部門 特任研究員 |
2015年 | 4月 | 国立遺伝学研究所 総合遺伝研究系 人類遺伝研究部門 助教 |
現在に至る |
論文情報
子宮内膜症および正常子宮内膜における癌関連遺伝子異変のクローン性増殖と多様化
掲載論文『Cell Reports ARTICLE Volume24, ISSUE7, P1777-1789, AUGUST14, 2018』
Q1, 研究テーマについて教えてください。
Q2, SeqCapを採用いただいたきっかけを教えてください。
Q3, SeqCapを用いた研究内容について教えてください。
子宮内膜症は生殖年齢にある女性の約10%に認められる疾患です。その発症原因は未だ明らかにされていません。月経困難症や不妊との関連も指摘されていて、少子化や女性の社会進出の障害として社会的損失が大きい疾患です。子宮内膜症の病理学的特徴は、卵巣や腹腔などの病変部位において、子宮内膜様組織が認められることです。このことから、月経時に剥がれ落ちた子宮内膜の一部が卵管を逆流し、卵巣や腹腔に生着・増殖することで、子宮内膜症が発症すると考えられています。
私達は子宮内膜症発症機序を明らかにするために、卵巣に生着した子宮内膜症上皮細胞に生じているゲノム変化を網羅的に同定しました。また、正常子宮内膜上皮細胞におけるゲノム変化にも着目しました。結果として、PIK3CAやKRASを含むがん遺伝子に体細胞変異が多数検出されました。また、次世代シーケンサーの特性を利用して、変異を保有する細胞のクローナリティについて検討したところ、子宮内膜症上皮においてがん遺伝子における変異を保有する細胞はクローナルに増殖していました。さらに興味深いことに、正常な子宮内膜上皮細胞においても、PIK3CAやKRASなどのがん遺伝子に多数の体細胞変異が認められました。正常な子宮内膜上皮における変異はクローナリティが低いことが分かりました。つまり、正常子宮内膜上皮では、がん遺伝子に変異を保有する細胞と保有しない細胞がモザイク状に混在していることが明らかになりました。私達は正常な子宮内膜がDNAレベルでモザイクな状態を呈する原因に関心を持ちました。
子宮内膜は深部の基底層と子宮腔に近い機能層に分かれ、機能層は卵巣ホルモンの影響を受けて、増殖と脱落という周期的変化を繰り返します。子宮内膜機能層は月経周期に応じて剥落・増殖を繰り返す、高い再生能を有する組織です。我々は正常な内膜上皮細胞が管状構造を呈して発達していることに着目し、内膜上皮細胞を管単位で分離する実験手法を確立し、単一腺管レベルという最小機能単位でDNAシーケンスを行いました。
その結果、正常な子宮内膜から採取した腺管において、PIK3CAやKRASを含むがん遺伝子に体細胞変異が検出されました。驚くべきことに、各腺管で保有する変異はクローナルな状態に達していましたが、腺管ごとに異なる体細胞変異を保有していました。つまり、個々の腺管が異なる体細胞変異を有するため、腺管の集合体である内膜組織ではゲノムがモザイク状態を呈することが分かりました。
これらの知見は、モザイク状ゲノムを呈する子宮内膜が月経血逆流を介して卵巣に生着・増殖する過程で、KRASなどがん遺伝子に変異を有する腺上皮細胞が生存に有利となり、クローナルに増殖した結果として、子宮内膜症が発症するという発症メカニズムを示唆していると思います。
Q4, SeqCapを使った感想をお聞かせください
Q5, SeqCapについて今後改良や改善を希望する点はございますか?
中岡先生のインタビュー記事でご紹介させていただきました、SeqCapプローブのメリットである「プレプール法」については、下記をご参照ください。
ハイブリダイゼーションの工程で複数のサンプルを混合する「プレプール」法を適用するとサンプルあたりのコストを下げることができます。各塩基あたりの必要カバレージを考慮して、プールするサンプル数を決定してください。
※ SeqCap Epi システムはプレプール法に対応しておりません。
ユニークなインデックスアダプターをそれぞれのサンプルに独立に結合させてライブラリを調製し、それらを混合してハイブリダイゼーション(キャプチャー)を実施します。データ解析の段階でインデックスごとにデータを振り分けます。
複数のライブラリーを混合してハイブリ(キャプチャー)する「プレプール法」は、シーケンスのコスト削減が可能です。