東京大学名誉教授
1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。
第二十回 ジカ熱とハイブリッドの謎
“カエルの子はカエル”だが、“鳶(トビ)が鷹(タカ)を生む”たとえもある。前者はメンデルの法則で説明できるが、トビ→タカとなるとこの法則だけでは無理だ。
キューバ産とメキシコ産の両親から生まれた蚊が、ブラジル産蚊と交配し、スーパー・スターが誕生したらしい。ジカ熱の原因ウイルス(ジカウイルス)を媒介する蚊(ネッタイシマカ、Aedes aegypti)の話である。
ジカ熱は中南米やカリブ海領域などで見られる感染症で、妊婦が感染すると新生児小頭症の原因となる。しばらく前、ブラジルで小頭症の新生児が増え大きなニュースになった。その後に米国フロリダでも感染者が見つかり騒ぎが広まった。
ネッタイシマカは、ジカ熱の他にも、黄熱(黄熱ウイルス)、デング熱(デングウイルス)など深刻な病の原因ウイルスを伝搬する。ネッタイシマカは世界の亜熱帯、熱帯に広く分布しており、かつては南西諸島、九州の一部、小笠原諸島でも存在したらしい。今後、流通の発達と地球温暖化などの環境変化で、ネッタイシマカが日本に定着しても不思議はない。殺虫剤による蚊の駆除が試みられ一定の効果はあるようだが、中南米では未だに感染による被害は続いており蚊の撲滅は重要課題になっている。