第六十六回 Cパラドクスをめぐる年の瀬

東大名誉教授・塩田邦郎先生コラム「エピジェネティクスの交差点」
塩田 邦郎 先生のご紹介

塩田 邦郎(しおた・くにお)
東京大学名誉教授
1950年鹿児島県生まれ。博士(農学)。79年東京大学大学院農学系研究科獣医学専攻博士課程修了後、武田薬品工業中央研究所、87年より東京大学農学生命科学研究科獣医学専攻生理学および同応用動物科学専攻細胞生化学助教授、98年より同細胞生化学教授。
2016年早稲田大学理工学研究院総合研究所上級研究員。哺乳類の基礎研究に長く携わり、専門分野のエピジェネティクスを中心に、生命科学の基礎研究と産業応用に向けた実学研究に力を注ぐ。2018年より本サイトにて、大学や企業での経験を交え、ジェネティクスとエピジェネティクスに関連した話題のコラムを綴っている。


第六十六回 Cパラドクスをめぐる年の瀬

 私が乗っていた1970年代の車には、パワーウインドウやパワーステアリングはなかった。バックミラーも手動でドアを開け、外に出て自分の手で角度を調整していた。それでも、約100年前に米国で生産されていたT型フォードに比べれば部品数は圧倒的に多いはずだ。以来、利便性、乗り心地、スピード、安全性など追求した結果、部品数は約3万個にもなっているという。内燃機関とモータ駆動の両系統を備えるハイブリッド車ともなるとより複雑になり、部品の数はさらに多いはずだ。

 ロシアの自動車メーカー「アフトバズ」ではコロナ禍やウクライナ侵攻などの影響で、部品調達が難しくなり、エアバッグやアンチロックブレーキシステムなど安全装置までも省いたモデルに切り替えた、と先のコラム(第四十九回 ケネディ・コイン)に記した。明らかに時代に逆行している。こういった例外があっても、車は部品の数を増やしながら進化してきた。

 ところが、世界の自動車産業は新たな局面に突入している。脱炭素社会が背景の1つになり、車の部品数はこれまでの約3万個から2万個に減るというのだ。理由は電気自動車へのシフトのためだ。単なる移動手段という概念を超え、快適な情報スペースとして、車はネット社会の中心になりつつある。数や量の増加を伴ってきた自動車業界のルールが変化したのだ。

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