第四十九回 ケネディ・コイン

東大名誉教授・塩田邦郎先生コラム「エピジェネティクスの交差点」
塩田 邦郎 先生のご紹介

東京大学名誉教授

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第四十九回 ケネディ・コイン

 

 西暦1967年のケネディ・コインが手元にある。45年前に米国セントルイスのブックストアーで釣り銭の中に見つけたコインだ。科学技術をリードし自由の国を標榜する米国、何もかもが素晴らしく思えていた米国社会のはずだった。ジョン・F・ケネディが銃弾に倒れた1963年は私が中学1年生だった。どのような時代だったのか、とコインを見て思う。

 数百万年前にアフリカ大陸に出現した人類は、食糧難・疫病・争いなど度重なる困難に見舞われながら、現在では80億人にも達する人々が、微妙なバランスの上に成り立つ約200の国や地域に住んでいる。その世界各地がこのところ気温40度を越す猛暑に襲われている。地球温暖化による災害に加え、森を壊し動物世界に踏み込んだことで起きたとされるウイルス感染症パンデミック、権力者の思い違いで始めてしまった戦争、人間は相変わらず無力で愚かに思える。

 一般の細菌(原核細胞)は栄養・温度・湿度などの環境に合わせシンプルに生き抜いてきた(第43回コラム)。失敗しても生活単位のコロニーが滅ぶことは織り込み済みで、後のことは他のコロニーに託す。原核細胞では全ての遺伝子は、直ちに利用可能な(緩んだ)状況にあるから、余計な装置は持ち込まず、転写因子によるオン・オフ制御だけで十分なようだ。それもゲノムDNAの必要部分だけを残し不要部分を切り捨ててきた結果だ。

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