東京大学名誉教授
1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。
第二十二回 高額医薬品(2)
こんな高い価格設定はおかしいのではないか?高額薬の国民健康保険への適用にどこまで耐えられるのか?“がん”治療薬の「免疫チェックポイント阻害剤」治療薬オプジーボ(1700万円)やCAR-T細胞療法キムリア(3,349万円)も、前回の第21回コラムで取り上げた難病治療薬ゾルゲンスマ(2億3000万円)ほどではないが高額である。しかし、これら高額薬の出現を待つまでもなく国の医療財政はすでに苦しくなっていることはよく知られている。
しばらく前、背中に発疹がでて夜中に痒くなる状態が数ヶ月続き、何か深刻なものかと近所の病院で診てもらった。病院に行くのは好きではないのだが、発疹の始まりが海外に数日間滞在した後でもあったので、近所の病院を訪れたのだ。医師はちょっと診て「とりあえず薬を出します」と告げた。私は診察代を払い、処方箋を受け取って近くの薬局に向かいながら処方箋に目をやり驚いた。そこには抗ヒスタミン内服薬(2週間分)とデキサメサゾン軟膏(5g入り5本)と書かれてあった。まず、デキサメサゾン軟膏の5本という多さに驚いたのだ。そしてよく眺めて両薬とも大手製薬会社製であることを知った。
私は薬局で「ジェネリックありますか?」と尋ねた。これらは大手製薬会社の製品であった。古くから知られた薬物であるからジェネリック薬が売られているはずだ。政府も医療費削減からジェネリックを!と広報しているから、ここは貢献しなければ・・。ところが「ここの病院はジェネリックは嫌いなのですよ。抗ヒスタミン薬も軟膏も、ジェネリックは取り扱いません」と薬剤師の答えだった。
何か悪いことを言ってしまったようでばつが悪かったが、ここでめげてはいけないと思い直し、私は医師に連絡を取るように薬剤師に頼んだ。「これらの2つの薬をジェネリックにしたいこと、および、デキサメサゾン軟膏も5本は多すぎる」と伝えてもらったのだ。しかし、ジェネリック薬への変更は許されず、軟膏をやっと1本に減らせただけだった。気楽にその病院に行ってしまったことに忸怩たる思いが残った。どの病院もジェネリック嫌いというわけでは無いと思うが、ジェネリック薬への切り替えが欧米に比べて進まない背景の1つなのだろうか?