第二十七回 甘いけど美味しい!(2)

塩田先生コラム 第九回
塩田 邦郎 先生のご紹介

東京大学名誉教授

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第二十七回 甘いけど美味しい!(2)ヒストンのラクチル化

 今年の全米オープンテニス大会はコロナウイルス感染予防のため無観客試合だった。怪我と手術から約1年間かけて復帰した錦織選手の活躍を楽しみにしていたのだが、新型コロナウイルスに感染し欠場となった。

 グランドスラム・テニス大会(全英、全仏、全豪、全米)は5セットマッチのため、1試合が4時間〜5時間にもなる。約2週間のトーナメントを勝ち抜くには、タフな肉体と精神が要求される。体力と精神力の消耗戦、その結果として選手に怪我はつきものだ。

 スポーツ等における筋肉の疲労の原因は、暫く前までは乳酸(lactic acid)が蓄積するためだとされてきた。乳酸は、短距離ダッシュなど大量のエネルギー(ATP)を必要とする激しい運動時に蓄積するためだ。しかし、乳酸は老廃物ではなく、代謝の最終産物でもない。

 筋肉に蓄えられたグリコーゲンがグルコースに分解されピルビン酸となる過程で、筋肉収縮のエネルギーが得られる(*注)。次にピルビン酸は直ちに乳酸脱水素酵素(lactose dehydrogenase, LDH)によって乳酸となる。このエネルギー取り出し過程は、獲物を見つけて追いかけるなど、緊急対応に適している。最終的に乳酸はミトコンドリアに運ばれ大量のエネルギーに変換されるのだが、問題はミトコンドリアでの代謝には時間を要することだ。

 乳酸から二酸化炭素と水にまで分解されるミトコンドリアでのエネルギー代謝は、即効性に欠けるため急にエネルギーを取り出そうとすれば目詰まり状態になり乳酸が蓄積してしまうのだ。激しい運動で呼吸が苦しくなり組織が低酸素に陥ると、ミトコンドリアの活動は低下し、ますます目詰まりがひどくなってしまう。そして、蓄積した乳酸は組織液や血液中にも溢れ出すことになる。

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