第三十六回 将軍家宣の胎盤

東大名誉教授・塩田邦郎先生コラム「エピジェネティクスの交差点」
塩田 邦郎 先生のご紹介

東京大学名誉教授

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第三十六回 将軍家宣の胎盤

 文京区の根津神社には、私の所属した職場が近かったこともあり、学生らと連れ立ってよく訪れた。昨年と今年はコロナ禍で叶わなかったが、例年5月はつつじ祭りで賑わう。そこには生殖科学・発生学・免疫学あるいはゲノム関連の外国人研究者を幾度か案内した場所がある。千本鳥居の先の割石が積み上げられた「第6代将軍・徳川家宣の胞衣(えな)塚」だ。胞衣とは“胎児を包んだ膜と胎盤”のことで“後産(あとざん)”を意味する。ここに家宣の生まれた時の後産が埋められているのだ。

 胎盤は哺乳類が次世代を育むための必須の臓器である。胎盤は栄養を供給し老廃物を取り除き胎児の発育を支えるばかりでなく、母親の乳腺の発育を促し授乳の準備をするなど重要な役割を果たしている。だから胎盤は胎児と母親にとって重要なのだが、妊娠していない女性や男性には関係ない、妊婦特有の臓器と捉えられているのではなかろうか。しかし、胎盤は受精卵から出来上がるから、胎盤を女性専用と決めつけて良いだろうか?と考えてしまう。受精卵から胎盤の細胞が発生するのは男女を問わず、“胎児期には胎盤(細胞)を持つ”。つまり、根津神社の胞衣塚には徳川家宣の(母君ではなく家宣本人の)ゲノムDNAを有した胎盤や胎膜が埋められていることになる。

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