東京大学名誉教授
1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。
第四十三回 スマホの言い訳
スマートフォンを買い替えた。電話、メイル、Google検索と地図アプリくらいしか使わなかったから、古い機種でも問題はなかったのだが、電池の持ちが悪くなったのだ。“将来に備えて・・?”と理由をつけて、ガラケーからスマホに変えたのがいつだったか、それ以来、わざわざ高いコストをかけてスマホを使っている。
進化の過程で、ゲノムDNAを溜め込む選択をしたのが人類を含む真核生物だ。 真核生物のゲノムDNAは、大腸菌の1000倍以上となり、ヒトでも約30億塩基対にもなる。その結果、元とは少し変わったDNA配列が加わり、未知の世界に対応できる能力が備わったと記した(第42回コラム)。
ゲノムDNAが全く同じならクローン人間だ。それぞれの人に個性(顔形、体型、病気のなりやすさ、運動能力、才能、根気の有無など)があるのは、それらに対応した少し異なるDNA配列が存在するからだ(第42回コラム)。生命情報を記したDNAの存在が、個性の裏付けとなり、それぞれの人生を創り出す。それに対して、例えば100万個からなる大腸菌コロニーでは、個々の大腸菌のゲノムDNAは全く同じで、表現系も同じクローンということになる。
ゲノムDNAに “優れもの遺伝子(あるいはDNA配列)”がすでに存在しており、後に大リーグMVPの大谷君や将棋5冠王に挑む藤井君など、時代のスターを生み出してきたのだ。しかし、優れもの遺伝子が存在したからといって誰でもがスーパースターになれるわけではない。