第五十八回 チャット狂騒

東大名誉教授・塩田邦郎先生コラム「エピジェネティクスの交差点」
塩田 邦郎 先生のご紹介

東京大学名誉教授

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第五十八回 チャット狂騒

 「先生、まだっすか?」しばらく居眠りをしていた彼が声をあげた。夜だいぶ遅くなっていたと思う。私は彼の論文ドラフトを読み、オリジナルを損なわずに直すにはどうするか、パソコンに向い、悪戦苦闘していた。私が質問を繰り返している間は神妙に姿勢を正していた。

 私は帰りの電車の時刻が気になり始めたが、このままでは論文にならない、と半分徹夜の覚悟を決めた。しかし、やがて彼の寝息が聞こえ始めると、いったい誰の論文を直している!と私の血圧は上がりぎみになった。

 他の数名の大学院生の修士論文については数日前に若干の手直しで済んでいた。しかし、彼は論文締め切りが迫った日の夕方になり「これでいいっすか?」とドラフトを持ってきたのだった。難癖をつけられずに済ますには締め切り間際に提出、と踏んでいたのかもしれない。

 最初から完璧に書ける学生・大学院生は多くない。自分で得た実験結果を基にした研究論文を書くとなると、論文の書き方などの本を参考にするにしてもなかなか厄介だ。かつての私もそうだったとの忸怩たる思いがある。教官に色鉛筆で真っ赤に直されたドラフトの記憶があるのだ。

 今年になり対話型AI(人工知能)がブームとなっている。米オープンAIが2022年11月に公開した大規模言語モデル「ChatGPT(チャットGPT)」のGPTとはGenerative Pre-trained Transformerの頭文字だ。対話型AIは、人間一人が1,000年かけても読みきれない程の膨大なネット上の情報を基に文章を組み立て、さらに利用者の意見を取り入れた学習機能を備えることで自然な文章の作成が可能になっているという。

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