第五十三回 フェイクの真実

東大名誉教授・塩田邦郎先生コラム「エピジェネティクスの交差点」
塩田 邦郎 先生のご紹介

東京大学名誉教授

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第五十三回 フェイクの真実

 

 夏の太陽が輝くビーチ、秋の紅葉、冬の雪景色、春の桜吹雪、季節毎のコマーシャルに気分も盛り上がる。カロリーを気にせず、甘さに浸れる幸福感、ダイエットを謳う炭酸飲料は意志薄弱を責めつけない商品の数々だ。甘いが太らない人工甘味料はフェイク(fake)であるが、カロリーゼロの炭酸飲料が市民権を得て久しい。私たちの生活の中には様々なフェイクが蔓延している。いや、私たちはフェイクと知りつつ暮らしている確信犯だ。

 初期の甘味料の代表サッカリンは、砂糖(ショ糖)の代用品として食糧難の時代に主に用いられた。ニトログリセリンやサッカリン、そしてアスパルテームなどの人工甘味料開発について先に記したように(第26回コラム)、飽食の時代になると低カロリーやカロリーゼロが前面に出てきた。肥満が循環器疾患や糖尿病などの生活習慣病や認知症、さらにはがんのリスク・ファクターであることが明らかになり、人工甘味料の評価が変わってきたのだ。サッカリンで悪いイメージを持った旧世代にも、健康を維持する手段としてカロリーゼロの人工甘味料が受け入れられ世界中に広まっている。

 これまで私たちは甘さ=エネルギー源として生きてきた。砂糖は主にサトウキビを搾った汁から精製して作られる天然の甘味料で、消化酵素により分解されブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)となる。米や麦の主成分であるデンプンも消化されグルコースとなり、小腸壁から吸収されて主に肝臓で全ての細胞に利用可能なエネルギー源のATP(アデノシン三リン酸)が作られる。この天然糖の代謝経路に人工甘味料は入らないから、エネルギー生産に結びつかない。ダイエットの効果が期待できるというわけだ。

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