第二十六回 甘いけど美味しい!

塩田先生コラム 第九回
塩田 邦郎 先生のご紹介

東京大学名誉教授

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第二十六回 甘いけど美味しい!

 いつの頃か“甘いけど美味しい!”と子供達がつぶやいていた。それから2〜30年、今では“甘いけど美味しい”は、言いえて妙かもと思っている。

 甘いものを好むことは、エネルギー源として糖を求める、広く生物界に根ざした本能だ。味に対する好みは、哺乳類と昆虫の間ですら似た部分がある。例えば、共に甘味は好み苦味を避ける、という具合だ。エネルギー源を確保するために“甘い=美味しい”の感覚は、自然界で生き抜くために欠かせない動物種に共通の能力であるはずだ。厳しい生存競争が繰り広げられる中で、甘さを美味しいと感じない動物集団は生き残れなかったのではないか?その意味では“甘いけど美味しい”に違和感を感じていた。

 ダイナマイトの基材として、あるいは、狭心症の治療薬としても用いられてきたニトログリセリンは、戦後の食糧難の時代には甘味料としても使用されたという。私はサッカリンやチクロなど、人工甘味料が砂糖の代用として用いられ、毒性の報道が盛んであった時代の空気をおぼろげに覚えている。サッカリンに代表される初期の人工甘味料は、その後に発がん性などの毒性が問題になり、今では使用が制限あるいは禁止されている。私たちの世代は、妙な甘さがいつまでも残るサッカリンの味を覚えている。余裕のない当時は、“甘いから美味しい”が当たり前の時代だったのだ。

 19世紀にイタリアの化学者アスカニオ・ソンブレロは、新たに合成した爆発性ニトロ化合物であるニトログリセリンについて「舌の先にほんの少し乗せただけで飲み込んでいないのに、脈が激しくなり、ひどく頭が痛くて、手足の力が抜けた」と記していた{スパイス、爆薬、医薬品、世界史を変えた17の化学物質、Penny Cameron Le Couteur, Jay Burreson著(小林力訳)中央公論新社、ISBM978-4-12-00437-9 C0040}。ニトログリセリンのこの血管の拡張作用が、後に狭心症の治療薬として用いられることになるのだが(*注)、ここで問題にしたいのは実験試料を舐めるという行為だ。

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