塩田 邦郎(しおた・くにお)
東京大学名誉教授
1950年鹿児島県生まれ。博士(農学)。79年東京大学大学院農学系研究科獣医学専攻博士課程修了後、武田薬品工業中央研究所、87年より東京大学農学生命科学研究科獣医学専攻生理学および同応用動物科学専攻細胞生化学助教授、98年より同細胞生化学教授。
2016年早稲田大学理工学研究院総合研究所上級研究員。哺乳類の基礎研究に長く携わり、専門分野のエピジェネティクスを中心に、生命科学の基礎研究と産業応用に向けた実学研究に力を注ぐ。2018年より本サイトにて、大学や企業での経験を交え、ジェネティクスとエピジェネティクスに関連した話題のコラムを綴っている。
第七十九回 初夢を覚えず
初夢は見なかったのだろうか?いや、夢を見ていたのかどうかは分からない。朝になって目が覚め、初めて眠っていたことに気付く。レム睡眠の最中に起こされた場合、人は夢の内容を詳細に語れるというが(注1)、普通に目が覚めた時には覚えていない。大脳皮質はレム睡眠時に覚醒時と同等かそれ以上の活動をしており、夢は無意識下の脳の活動のごく一部である。私たちが制限された「意識」の他に「無意識」の世界を持っていることの一つの証だ。
おそらく私たちは、最も急速な変化の時代を生きている。現実の世界に目を向けると、トランプ政権が発足し、ドイツやフランス政権の極右化への動き、韓国の政権の混乱など、政治の分野では民主主義体制の混乱が目につく。背景には、先進国の高齢化による人手不足や移民政策の混迷、社会の多様化に起因する将来不安があるようだ。さらに、待ったなしの地球温暖化を背景に、産業構造の大変革も進んでいるのだが、相変わらず従来の枠内でしか語られていない。この変化にどう対応できるのだろうか?どこまで私たちは思考をめぐらせることができるだろうか?