第四十六回 宇宙時代の精子

東大名誉教授・塩田邦郎先生コラム「エピジェネティクスの交差点」
塩田 邦郎 先生のご紹介

東京大学名誉教授

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第四十六回 宇宙時代の精子

 アフリカ大陸で生まれた人類の祖先達は、自然環境が大きく異なる地域にまで進出し、他の大陸・島々などへ生活域を拡げ子孫を残してきた。この間、人類の最大の課題は食糧の確保であっただろう。個体の寿命が尽きることを前提に生殖細胞(卵子と精子)が作られる。

 ヒトでは子孫を残そうと一斉に数億もの精子が、一個の卵子を求め受精というゴールを目指す。スタート時の数億から数千、さらに数を減らして受精の場の卵管膨大部に達するのは100個かそれ以下だ。

 ここまで泳ぎ切り、卵子に出会ったとしても受精を果たせるのはただ1個の精子だけ。最初の精子が卵子に進入すると特殊タンパクが卵子から放出され、2番目以降の精子の進入は阻止されるから、1卵子と複数の精子が受精することは防がれる。

 1番目と2番目以降の精子の運命の差は歴然で、他の精子たちと共に役に立たないまま終わる。精巣内で生涯に生産される精子の数は天文学的数字になるから、アフリカの祖先から受精によってゲノムDNAを脈々と継承してきた本コラムの読者は、我こそは“宇宙の選ばれし者”だと自負して良い。

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