第二十八回 甘いけど美味しい!(3)

塩田先生コラム 第九回
塩田 邦郎 先生のご紹介

東京大学名誉教授

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第二十八回 甘いけど美味しい(3)ヒストン糖修飾の潜伏期

 テレビ映画「刑事コロンボ」は、最初の場面で犯人と犯行の全てが明かされた上でドラマが進む。ヨレヨレのコートを着たいかにも風采の上がらない刑事と、豪邸に暮らすスマートな犯人の心理戦が特徴である。一方、「探偵エルキュール・ポアロ(アガサ・クリスティ)」など、他の多くでは観客・読者には鍵となる情報は伏せられたままで進行し、最後の場面で新情報とともに真犯人にたどり着く。探偵ポアロでは、当初もっとも疑わしいと思われた人物は犯人でなく意外な犯人像という展開になる。「オリエント急行殺人事件(アガサ・クリスティ)」でも、事件は10年以上も昔の情報で事件は解決するのだが、観客・読者には最後まで限られた情報しか与えられない。先入観は禁物なのだが、観客・読者はつい騙されてしまう。

 研究のスタイルも、すでに明らかな限られた情報でパズルを解くコロンボ型と、未知の情報を探索して謎を解くポアロ型がある。専門誌のページを眺めると、研究論文の多くはコロンボ型の展開だ。なにしろ、すでに明らかになった情報だけでも多岐で複雑なため謎解きも困難である。我先にと多くの人が懸命に取り組み、類似した論文が他の専門誌にも現れ、優先権の争いとなる。雑誌の総説としても特集が組まれ、複数の検証も進み分かりやすいストーリーが受け入れられ、教科書にも記載される。知らないとすれば勉強不足と思われる?と、さらに多くの人が群がる。

 一方、必要な鎖の輪が欠けているのでは?と未知の情報(生物・遺伝子・分子・構造など)の探索や解明に向かう研究がある。この場合、発見できなければ失敗となりリスクは大きい。先行研究もごく少ない(あるいは無い)から、キーワードを入力して文献検索をしても見つからず、総説すら存在せず、もちろん教科書にも記載は無い。限られた年数で論文を仕上げる保証もなく、新人には向かない研究テーマとなる。しかし、この道が博打かというと、そうでも無い。新たな発見はどこかで一見関係ない別の発見と繋がっている場合がある。

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