第三十一回 始まりはたった1つのできごと

東大名誉教授・塩田邦郎先生コラム「エピジェネティクスの交差点」
塩田 邦郎 先生のご紹介

東京大学名誉教授

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第三十一回 始まりはたった1つのできごと

 今、コロナ禍で世界が喘いでいる。「あの時が・・」と、運命の出来事は後にならないと分からない。You must remember this・・♬♪・・ ドリー・ウイルソンの歌“As Time Goes By”、映画「カサブランカ、Casablanca」(1942年)の第二次世界大戦下、フランス領モロッコの酒場の一場面だ。モロッコ経由でアメリカに逃れようとするヨーロッパ移民が集まるモロッコの酒場で、主演のイングリッド・バーグマンとハンフリー・ボガードが再会する。パリでのレジスタンス運動、モロッコの裏社会、この古い映画を初めて観たのはいつのことか覚えていない。

 私たちのゲノムDNAは、核内に折りたたまれクロマチン(と呼ばれる高次構造)となり収納されている。クロマチンをほぐしてゆくと4種類のヒストン(H2A, H2B, H3, H4)各2分子(ヒストン8量体)に短いDNA(147塩基程度)が巻き付いたヌクレソームという基本構造にたどり着く。

 ヌクレソームはDNAの必要な遺伝情報を読み出し不要な情報を封じる、極めて重要な作業を担っている。生物にとってヒストン(H2A, H2B, H3, H4)はゲノム制御の中心メンバーなのだ。だからヒストンの変化は生命断絶のリスクを負うことを意味し、死を免れるためには新たな生活スタイルを変異ヒストンと作り上げることになる。ガソリン車から電気自動車に変える場合、インフラ再整備を含む大幅な社会の変革が必要となるように、手をこまねいていると電気自動車は走れないし社会も崩壊する。

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