第十二回 すこし気になるのですが・・刑事コロンボ

塩田先生コラム 第九回
塩田 邦郎 先生のご紹介

早稲田大学 理工学術院総合研究所 客員上級研究員・客員研究院教授
(東京大学名誉教授)

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より東京大学(農学生命科学研究科)、2016年からは早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第十二回 すこし気になるのですが・・刑事コロンボ

 「どうでもいいと思うのですが、上司がうるさいのでね」と何度も事件現場を訪れ、「なにか変だとおもいません?」と腑に落ちない様子で、しつこく質問を繰りかえし真犯人を追い詰めるドラマ“刑事コロンボ”でおなじみのシーンだ。

 自然科学の博士号はDoctor of Philosophy (Ph.D. 哲学博士)で、博士課程はPhDコースとも称される。“科学的”というと疑問の余地がない真実とされがちだが、データの取得法やその精度は時代と共に変わるし、積み重ねたデータの解釈となると人によって異なることも多い。

 胎盤の栄養膜巨細胞の大型のゲノムDNAを研究していたとき(第11回)、どうも気になる点があった。対照実験として腎臓、脳などの細胞や胚性幹細胞など複数の二倍体細胞(2n)を用いたのは正確さを考慮してのことだ。実験結果は約40cm x 40cmのレントゲンフィルムに1,000個以上DNA断片スポットとして検出される。なるほど、2種類の細胞(例えば、腎臓と脳の細胞)間にほとんど違いはなかったのだが、よくよく見ると、例えば、腎臓の細胞では995個(フィルムの一定範囲内の数字)で、脳の細胞では1003個と、細胞間で5〜10個ほどのスポットが有ったり無かったり、その現れ方に差が見られたのだ。全体が約1,000個の中の5〜10個程度であるから、わずか1%弱。

 気にすることはないのかもしれない。1%の違いは実験による誤差はあり得るし、当初の実験目的とは関係ない。99%をもって実験結果を判断すること自体は問題はないだろう。例外的なデータ1%に疑問を持つ方がおかしい、と。でも、私たちはすっかり刑事コロンボになりきっている。

 この実験では、数ある制限酵素の中から-GCGGCCGC-という8つの塩基配列だけを選択的に切断する制限酵素を用いてゲノムDNAを断片化していた。ここで注意すべきは、⑴ この制限酵素はCG配列のCがメチル化され-GC*GGCC*GC-(*はメチル化シトシン)となっていると切断できない、⑵ -GCGGCCGC-という並びの塩基配列は多くのCpGアイランドの特徴であることだ。つまり上記の1%のスポット検出の差は、2種類の細胞のどちらかの側でCpGアイランドがメチル化されている可能性を意味している。

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