第七十五回 ドロンの活躍した時代より

東大名誉教授・塩田邦郎先生コラム「エピジェネティクスの交差点」
塩田 邦郎 先生のご紹介

塩田 邦郎(しおた・くにお)
東京大学名誉教授
1950年鹿児島県生まれ。博士(農学)。79年東京大学大学院農学系研究科獣医学専攻博士課程修了後、武田薬品工業中央研究所、87年より東京大学農学生命科学研究科獣医学専攻生理学および同応用動物科学専攻細胞生化学助教授、98年より同細胞生化学教授。
2016年早稲田大学理工学研究院総合研究所上級研究員。哺乳類の基礎研究に長く携わり、専門分野のエピジェネティクスを中心に、生命科学の基礎研究と産業応用に向けた実学研究に力を注ぐ。2018年より本サイトにて、大学や企業での経験を交え、ジェネティクスとエピジェネティクスに関連した話題のコラムを綴っている。


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第七十五回 ドロンの活躍した時代より

 今年の全米オープン・テニスで印象に残ったのは、ベテランのジョコビッチや新世代の期待の星アルカラスが早々に敗れたことではなく、テレビで見た解説者たちの顔つきが、以前よりずっと老けていたことだった。声だけを聞いていると気にならなかったのだが、映像で見たその顔には、シワやシミといった老化の兆候がはっきりと見えた。

 解説者たちのシワやシミは、現役時代に屋外でのトレーニングや試合で強い日差しを浴び続けたことが原因だろう。これまでにも「第30回 ホームズの雨傘」や「第33回 日焼けの幸福感」に記してきたように、紫外線によるDNAのダメージの蓄積が老化の一因となる。

 今回は、先の「第74回 マトリクス怪談」に登場した核マトリクスの構成分子であるラミン分子の異常による、深刻な老化現象について紹介する。早老症(progeria、Hutchinson-Gilford syndrome、premature senility syndrome)は、ラミンA遺伝子(LMNA)の変異によって引き起こされる小児症候群で、患者は皮膚にシワができ、完全に禿げ、外見や行動が老人のようになる。多くの場合、動脈硬化が進行し、最終的には心筋梗塞や心不全、または脳卒中により十代で死亡するという(注1)。

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