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アプリケーションノート 2017<23> 製品名:KAPA HyperPlus Kit(for illumina)(KK8510, KK8512, KK8514) メーカー名:KAPA BIOSYSTEMS 社 |
下記データは、早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 細川 正人 先生のご厚意により掲載させていただきました。
概要
多量サンプルを扱うRNA-seq実験において、ライブラリ作製にかかるコストは大きく、実験規模を制約することにつながる。
多くのキットでは、推奨量として1 ng以上のインプットcDNAが必要とされている。ところが、シングルセルRNA由来のcDNAなどでは、cDNA収量がわずかであり、貴重なサンプル消費が懸念材料となる。
コスト面とインプット量制限の課題を解消するため、1細胞用のRNA-seq(増幅cDNA)ライブラリ作製プロトコルであるSMART-seq2とKAPA HyperPlus Kitを組み合わせた改変ライブラリ作製方法を検討し、他社製品と比較した。
実験条件と実験手順
細胞から抽出した50 pgのtotal RNAを用い、SMART-seq2(Nature Protocols 9,171-181(2014))の手法によりcDNAを調製した。それを用い、インプットcDNA量やLigationおよびAmplificationの反応液量を改変した、いくつかの条件でライブラリー調製を行った。
• 生物種: ヒトがん細胞株
• 初発サンプル量: total RNA 50 pg
• RNA抽出方法: RNeasy mini kit(Qiagen社) DNase I 処理実施
• cDNA調製: SMART-seq2(Nature Protocols 9,171-181(2014))
• ライブラリ調製:
KAPA HyperPlus Kit(ライゲーションベース)I 社キットN(タグメンテーションベース)
• シーケンサー: Miseq
KAPA HyperPlus 反応条件
サンプル ID |
プロトコール | インプットcDNA | アダプター (nM) |
グループ | ||
---|---|---|---|---|---|---|
濃度 (ng/uL) |
液量 (uL) |
cDNA量 (ng) |
||||
S01 | スタンダード (推奨法) |
0.2 | 5 | 1 | 300 | K1 |
S02 | ||||||
S03 | ||||||
S04 | L15_A12 | 0.2 | 1 | 0.2 | 1500 | K2 |
S05 | ||||||
S06 | ||||||
S07 | 1 | 1 | 1 | K3 | ||
S08 | ||||||
S09 | ||||||
S10 | 0.2 | 1 | 0.2 | 15000 | K4 | |
S11 | ||||||
S12 | ||||||
S13 | 1 | 1 | 1 | K5 | ||
S14 | ||||||
S15 | ||||||
S16 | L15_A15 | 0.2 | 1 | 0.2 | 1500 | K6 |
S17 | ||||||
S18 | ||||||
S19 | 1 | 1 | 1 | K7 | ||
S20 | ||||||
S21 |
KAPA HyperPlus kit
Input DNA量:0.2 ng 1.0 ng
反応液量: L15_A12:Ligation 1/5量 Amplification 1/2 量で反応
L15_A15:Ligation 1/5量 Amplification 1/5 量で反応
増幅サイクル数:全条件15 サイクル
I 社キットN 反応条件
サンプル ID |
インプット cDNA(ng) |
反応液量 | グループ |
---|---|---|---|
N.S01 | 1 (推奨法) |
1x | N1 |
N.S02 | |||
N.S03 | |||
N.S04 | 0.25 | 0.25x | N2 |
N.S05 | |||
N.S06 | |||
N.S07 | 0.5 | N3 | |
N.S08 | |||
N.S09 | |||
N.S10 | 1 | N4 | |
N.S11 | |||
N.S12 |
I 社キットN
Input DNA量:0.25 ng 0.5 ng 1.0 ng
反応容量:1/4 量で反応
増幅サイクル数:全条件12 サイクル
データベースと解析ツール
項目 | バージョン |
---|---|
リファレンスゲノム | Ensembl Human Genome,Release 90 |
アノテーションファイル | Ensembl Human GTF, Release 90, GTF |
QC, フィルタリング | flexbar 2.4, fastq-mcf, FastQC 0.11.2 |
ゲノムマッピング | HISAT2 2.0.5 |
遺伝子発現定量 | RSEM 1.3.0 |
マッピング領域同定 | bedtools 2.26.0 |
カバー率計算 | RSeQC(bam2wig.py) |
結 果
1.TapeStation によるライブラリーのサイズ確認
① KAPA HyperPlus を用いて作製したライブラリー
② I 社キットN を用いて作製したライブラリー
KAPA HyperPlus で250 bp 付近にピークが見られるが、シーケンスにおいて特に問題とはならなかった。
2.シーケンス解析データ
※下部の「各解析データ」を参照ください。
まとめ
項目 | KAPA HyperPlus 結果 |
I 社キットN 結果 |
評価 |
---|---|---|---|
シーケンス精度 | Phred Score 38 にピーク、ただしその割合は I 社キットN より少ない | Phred Score 38 にピーク | KAPA ≦ I 社キットN |
ミスマッチ | 約12% | 約8% | KAPA < I 社キットN |
挿入 | 約0.3% | 約0.3% | KAPA = I 社キットN |
欠損 | 約0.5% | 約0.5% | KAPA = I 社キットN |
GC 含量 | 60%にピーク | 50~ 60%にピーク (コントロールと条件変更サンプルでプロファイルが異なる) |
KAPA > I 社キットN |
シーケンスリード長 | cDNA 増幅アダプタ配列を含むためピークが複数※1 | cDNA 増幅アダプタがほとんど検出できないためピークは1つ※1 | KAPA > I 社キットN |
ゲノムマップ率 | 40~ 60% (マップツールのパラメータで改善可能) |
70~80% | KAPA ≦ I 社キットN |
インサートサイズ | 150~200 bp | 50~100 bp | KAPA > I 社キットN |
転写物カバー率 | 全体的に一定 | 3’側に偏る | KAPA > I 社キットN |
検出遺伝子数 | 約10,000 | 約10,000 | KAPA = I 社キットN |
データ再現性 | 条件によって再現性が低い時がある | 条件が同じならば再現性は高い | KAPA < I 社キットN |
条件変化に対する 堅牢性 |
条件が変化してもあまり変化しない | 発現量が高いとばらつく | KAPA > I 社キットN |
ばらつき | CV 上限:0.25 (1000 TPM) CV 上限:0.5 (100 TPM) CV 上限:1.0 (10 TPM) |
CV 上限:0.25 (1000 TPM) CV 上限:0.5 (100 TPM) CV 上限:1.5 (10 TPM) |
KAPA = I 社キットN (低発現遺伝子以外) KAPA < I 社キットN (低発現遺伝子) |
試験濃度依存性 | 濃度を変化させてもほぼコントロールと同等 | 濃度変化させると、高発現遺伝子の再現性がやや低下 GC 含量によって発現量の変化大 |
KAPA > I 社キットN (再現性) KAPA > I 社キットN (GC 含量による発現量の変化) |
※1(補足)
シーケンスリード長は、SMART-seq2 で使用しているcDNA 化およびPCR 時のアダプター配列を除去したあとのリード長を解析した。
したがって、特に短いリードは、もともとはPCR 後のアンプリコン末端を含んでいた配列であった。
KAPA HyperPlus はライゲーションベースのため、これらの配列がピークとして出て来ていると推察される。
一方、I 社キットN は、タグメンテーションベースのため、アンプリコン末端は原理的にリードとしてデータに出て来ないと推察される。
■ 総評
特に以下の点が評価され、KAPA HyperPlus のほうが優れていると判断された。
条件としてK6(Ligation1/5 量、Amplification1/5 量、インプットcDNA0.2 ng)でも運用可能と判断された。
• GC 含量による偏りが小さい
• インサートサイズが長い。
各解析データ
1.遺伝子発現定量の再現性
• 同条件でのサンプル間のばらつきを比較
• K7 を除き、いずれの相関係数も 0.99 以上で、ばらつきはほぼなかった。
KAPA HyperPlus
I 社キットN
2. コントロールとの比較
• K1, N1 をコントロールとして、再現性を比較
• KAPA HyperPlus ではコントロールとの整合性が高かった。
• I 社キットN は、N2 を除き、高発現領域の遺伝子の再現性が低かった。
KAPA HyperPlus
I 社キットN
3.KAPA HyperPlus とI 社キットN の比較(GC 含量および長さの影響)
• K1(KAPA HyperPlus)とN1( I 社キットN)を比較
• GC 含量によって発現量に偏りの発生が見られた。
• 一方、長さによる影響は見られなかった。
4.各サンプルのGC 含量ごとの平均遺伝子発現量
• I 社キットN はGC 含量が低い遺伝子の方に発現量に偏りが見られた。
• KAPA HyperPlus では、各条件で安定してコントロールと同じ傾向を示した。
5.各サンプルのインサートサイズの分布
• マッピングの結果から、インサートサイズを計算した。
• インサートサイズは KAPA HyperPlus の方が長かった。
I 社キットN :インサートサイズ最頻値100 bp 以下
KAPA HyperPlus :インサートサイズ最頻値150 ~ 200 bp
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