東京大学名誉教授
1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。
第六回 カリブ海のラム酒と”CpGアイランド”
カリブ海の島国グレナダ(Grenada)での学会に、10年以上前に参加した。グレナダは1498年にコロンブスにより発見され、その後フランス植民地となり、1873年にイギリス領を経て1974年に立憲君主国として独立した。バナナ、シナモン、カカオ、綿花、コーヒーを産し、観光も盛んだ。学会は、首都St. George にあるSt. George’s University Medical Schoolの協力で開催された。大学構内から眺める“紺碧のカリブ海”と色とりどりの“ラム酒の瓶”が印象に残っている。
さて、前回の疑問、どのようにして“CpGアイランド”が出来たのか?についてである。DNAメチル化と進化が絡んだ物語だ。
DNAメチル化とは、シトシン(C)がメチル化され、メチルーシトシン(5-meC)ができることである(第3回と4回参照)。酵素(DNAメチル転移酵素)が作用し、Cが5-meCとなるのだ。哺乳類ではDNAメチル化はCpG配列のCに限られる(例えばCpT, CpA, CpCなど他の配列のCはメチル化されない)。DNAのCpGがメチル化されると、その部分はギュ-ッと凝縮した硬い構造になり、遺伝子の活動は完全に阻止されてしまう。深い眠りにつき、あたかも存在しない状態になるのである。ウイルスなど外来DNAの場合も、活動が阻止され増殖できなくなるのだ。