第三十九回 カボチャ嫌いの言い分

東大名誉教授・塩田邦郎先生コラム「エピジェネティクスの交差点」
塩田 邦郎 先生のご紹介

東京大学名誉教授

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第三十九回 カボチャ嫌いの言い分

 

 私はカボチャが大の苦手で、天ぷらのかき揚げに入った細かく刻んだカボチャにも身構えてしまう。ウナギが嫌いな身内は、浜名湖土産のウナギ・パイですら遠ざける。我が国では昔から “何でも食べて好き嫌いのない良い子”という言い方がある。“好き嫌いする子”はうっかりすれば“良い子ではない”部類に入れられそうだ。

 私たち人間は他の動物に比べると、実に多種多様な食べ物を口にする。人類の祖先がアフリカ大陸で二本足歩行を始め、森から平原に進出し始めた頃は、それほど多くの種類の食べ物には恵まれていなかっただろう。むしろ森の食べ物が手に入りにくくなるリスクに向き合っていたはずだ。人類の生活域が、アフリカ大陸から気候や風土が様々な世界の各地に広がるためには、そのリスクをいかに回避するかは重要な課題であったに違いない。

 食べ物を探す際に、甘さを感じることはエネルギー源の目安として役立った。甘さはなんとも魅力的で、今でも人は甘そうな匂いを嗅ぐと舐めてみたくなる(第26回コラム)。苦味や酸味を感知することは、毒物や腐った物を避けるためには有効だったと思う。おそらく集団で移動しながら、野生の食物の探索だけでなく、発酵などとも偶然に出会い、「酸っぱいけど大丈夫」、「苦いけど美味い」、など新たに口にした物についての情報のやりとりがあったはずだ。こうして様々な食べ物に挑戦しつつ幅広い食べ物リストが出来上がり、地球各地に進出してきたのだ。

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