塩田 邦郎(しおた・くにお)
東京大学名誉教授
1950年鹿児島県生まれ。博士(農学)。79年東京大学大学院農学系研究科獣医学専攻博士課程修了後、武田薬品工業中央研究所、87年より東京大学農学生命科学研究科獣医学専攻生理学および同応用動物科学専攻細胞生化学助教授、98年より同細胞生化学教授。
2016年早稲田大学理工学研究院総合研究所上級研究員。哺乳類の基礎研究に長く携わり、専門分野のエピジェネティクスを中心に、生命科学の基礎研究と産業応用に向けた実学研究に力を注ぐ。2018年より本サイトにて、大学や企業での経験を交え、ジェネティクスとエピジェネティクスに関連した話題のコラムを綴っている。
第八十回 合併劇 “いばらの道”
企業の伝統や方針を語る際に「我が社のDNA」という言い方がある。近頃、日産とホンダの経営統合の協議や、日本製鉄によるUSスチール買収などが新聞紙面を賑わせている。技術革新や市場グローバル化が進む中で、これまでも製薬会社や銀行など、多くの企業が「DNA」を掲げて生き残り発展をしてきた。激動する社会の中でそれぞれの企業はどのように進化しようとするのか。
「進化」は「進歩」と同じ意味で捉えられることが多い。しかし、進化とは変わりゆく環境の中で生き残るための戦略であり、必ずしも進歩とは限らない。分子レベルでは、生命の設計図であるゲノムDNAの変化が進化の原因となる。進化の第一段階は、個体に生じるDNAの塩基配列の変化(変異)であり、第二段階は、その変異を持つ個体が集団内に広がることで達成される。変異には、生存や繁殖に有利なもの、不利なもの、あるいは影響を与えない中立的なものがある。一見不利に思える変異が、有利になり時代の先駆けとなる、あるいは、不利になり「退化」を促すことにもなる。