塩田 邦郎(しおた・くにお)
東京大学名誉教授
1950年鹿児島県生まれ。博士(農学)。79年東京大学大学院農学系研究科獣医学専攻博士課程修了後、武田薬品工業中央研究所、87年より東京大学農学生命科学研究科獣医学専攻生理学および同応用動物科学専攻細胞生化学助教授、98年より同細胞生化学教授。
2016年早稲田大学理工学研究院総合研究所上級研究員。哺乳類の基礎研究に長く携わり、専門分野のエピジェネティクスを中心に、生命科学の基礎研究と産業応用に向けた実学研究に力を注ぐ。2018年より本サイトにて、大学や企業での経験を交え、ジェネティクスとエピジェネティクスに関連した話題のコラムを綴っている。
第八十四回 たぬき寝入りの腕時計
午前5時30分3秒で針が止まっている。いつものことだと高を括っていたが、今回は深刻なようだ。この自動巻き腕時計は、当時はまだ珍しかったチタン製で発電機と蓄電池を備えており駆動する。放置して充電しないでおくと節電のために自動的にスリープモードになり停止する。この“たぬき寝入り”の間もカウントは続いており、普段は数回振ると目を覚まし、慌てて現在の時刻に針を合わせ再び動き出すのだが、今回はゆすっても針は停止したままだ。
25年以上前に購入した年代物であるが、これまでは全く修理や分解掃除をしたことはない。時計としての本来の機能を発揮し続けているだけでなく、日常生活で想定される衝撃、水、温度などへの対処を考慮した設計と作りである。修理センターに問い合わせると修理は可能だという。部品の在庫を確保し、修理専門の人員を配置して維持し続けている。コストはかかって大変だろうが、この会社への信頼性が増し、時計の価値も高まるから、老舗メーカーの強みになっている。