【お客様事例】植物病原ウイルス同定を目的とするダイレクトPCRの検討

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アプリケーションノート 2017<20>
製品名:KAPA3G Plant PCR キット(KK7251、KK7252)
メーカー名:KAPA BIOSYSTEMS 社
製品名:MyTaqTM Plant PCR Kit(BIO-25055、BIO-25056)
メーカー名:Bioline 社

下記データは、東京農業大学農学部農学科植物病理学研究室 キム オッキョン 様、佐藤 拓磨 様のご厚意により掲載させていただきました。

背景

植物ウイルスは作物や果樹などに広く発生し、多大な被害を及ぼすことで農業上問題となっています。さらに、植物ウイルス病に対して即効性のある農薬は未だにないため、発病が見られたら早期かつ正確に診断することが病害の蔓延を防ぐ最善策です。ウイルスゲノムとしてDNAをもつトマト黄化葉巻ウイルスは国内のトマト栽培に問題となっている病原ウイルスです。本ウイルスがトマトに感染・発症すると新しい葉の周辺部が巻き上がり、葉脈間が黄化してしまいます。さらに症状が進むと、葉はちりめん状となり萎縮状態となります。また発病した部位から上は、花が正常に咲かず、実もならないため、生育初期に感染した場合、収穫はほとんど見込めません。
当研究室では、このような感染した植物から病原ウイルスの同定を依頼されることも多く、感染が拡大しないように検査の正確さに加えて、スピード、手順の簡便さが求められています。従来の方法では、植物組織からDNAを抽出してウイルスの同定を行うため、時間を要し、手順も多いので課題となっていました。そこで植物組織を直接PCR反応液中に加えるダイレクトPCRにも使用できるPCRキットを検討しました。

ワークフロー

実験条件

 従来法(専用抽出液+T社) 

試料採集とDNA抽出 80

1)細胞の破壊

凍結させた植物組織を粉末状に破砕

2)細胞の溶解

← 試薬Ⅰを添加し懸濁
← 試薬Ⅱを添加し転倒混和
65℃、10 分間 振とうインキュベーション
氷上、20 分間

3)DNAの抽出

氷上から取り出す
← 抽出試薬を添加
室温、10 分間 振とう
遠心 1,300×g、10 min.
DNAを含む上層を回収
(中間層は樹脂層、下層部は有機溶媒層)

4)DNAの回収

イソプロパノール(冷)を同量添加し転倒混和
遠心 4,000×g、5 min.
上澄みを除去
沈殿を70%エタノール(冷)で洗浄
遠心 4,000×g、5 min.
上澄みを除去
沈殿を10 分間、風乾
TEバッファーまたは水にてDNAの溶出

 DNA溶出

 

PCR条件

反応組成   PCRプログラム

dH₂O                                                          31.8 μL
T 社ブレンド酵素(5 U/μL)       0.2 μL
10X Buffer(Mg2+ 20 mM)         5.0 μL
dNTP Mixture(2.5 mM each)                   4.0 μL
Template                                                      5.0 μL
F Primer(10 μM)*1                                             2.0 μL
R Primer(10 μM)*1             2.0 μL
total                 50.0 μL

  94℃
94℃
58℃
72℃
72℃
15℃
2 min
1 min
1 min
1 min
2 min
Hold

 

  
34 cycles

 

*1 配列情報:
Deng et al.(1994), Detection and differentiation of whitefly-transmitted geminiviruses in plants and vector insects by the polymerase chain reaction with degenerate primers

 今回の検討(ダイレクトPCR) 

試料採集 10

方法1

200 μL チップによる採集
200 μL チップ先を
斜めに切ったもので
葉の破片を収集

方法2

爪楊枝による採集
試料葉を突いた爪楊枝を
チューブの溶液内に解す
(壁にかくような感じ)

方法3

Filter paper による採集
葉の汁液が付いた
Filter paperを
少し切り取る


PCR条件

反応組成
① KAPA3G Plant PCR Kit

 dH₂O                  17.6 μL
 KAPA Plant PCR Buffer(2X)      25.0 μL
 MgCl₂(25mM)               4.0 μL
 F Primer(10 μM)*1              1.5 μL
 R Primer(10 μM)*1              1.5 μL

 KAPA3G Polymerase           0.4 μL total                  50.0 μL

 
 
② MyTaq™ Plant PCR kit
  ※MyTaq Plant PCR Mixは泡が生じやすいため、試料を加えた後にMyTaqを分注した

 dH₂O                   21.0 μL

 MyTaq Plant-PCR Mix(2X)       25.0 μL
 F Primer(10 μM)*1            2.0 μL
 R Primer(10 μM)*1            2.0 μL total                  50.0 μL

 
 
PCRプログラム
 94℃
 94℃
 58℃
 72℃
 72℃
 15℃
2 min
1 min
1 min
1 min
2 min
Hold

 

 
40 cycles*2

 

*1 配列情報:
Deng et al.( 1994), Detection and differentiation of whitefly-transmitted geminiviruses in plants and vector insects by the polymerase chain reaction with degenerate primers
*2
プロトコルに書いてある通りに、DNA抽出物からのPCRプログラムよりPCRサイクル数を増やして行った

結果

 ■ 電気泳動条件
  1×TAE buffer
  50 V, 40 min
  1 μL of 6×loading buffer+5 μL of PCR product/lane
  5 μL of 100 bp DNA ladder(TaKaRa社 Cat# 3407A)

予想通りにTYLCV感染葉からの試料全てで陽性反応が見られた。汁液の付いたFilter paperを入れてDNA増幅させた結果、MyTaqでもKAPA3Gでも陽性反応であったが、MyTaqを使った方はバンドが多少低く位置した。しかしながら、MyTaqで得たバンドをDNA精製、クローニングシークエンスを行ったところ塩基配列の決定には問題ないことが分かった。
全体的にKAPA3Gではスメーアが見られるが、MyTaqでは特異的反応のみが検出された。
チップを用いる場合は断片を取って反応液内に入れるのに苦労したが、爪楊枝を使うことでより簡易に核酸を得ることができた。1ヵ所を突いても病原ウイルスの検出には十分であったが、3 ヵ所を突いた方がより濃いバンドを得ることができた。

お客様のコメント

お客様のコメント
これまでは、トマト黄化葉巻ウイルスの感染有無を調べるためにDNAを抽出して市販のPCR試薬でPCRをかけていた。一度に多くの試料を検定するにあたって時間や手間、そしてコストがかかる従来法に比べて、MyTaq™ Plantキットを用いた植物試料からのダイレクトPCRは非常に簡便で安定した結果を得ることができた。
試料採集においては、切断したチップ先を用いて植物葉をパンチする方法、爪楊枝で葉を突いて反応液内に解す方法、そして葉をFilter paperにブロッティングすることで汁液が付いたペーパーの破片を使う方法を試してみた。いずれの方法においても羅病葉からのみで陽性反応が見られたが、中でも爪楊枝法で最も簡易に核酸を得ることができた。爪楊枝法とMyTaq™ Plantキットの組み合わせにより、多検体の効率的な検定とともに、病原ウイルスを検定する研究において最も懸念されるコンタミネーションを防ぐこともできる。
今後、他の植物に発生しているDNAウイルスの検定にも有効であるかどうかの検討を進めていきたい。

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