ibidi(イビディ)社は「顕微鏡で細胞を観察する容器」に特化して製品を開発しているドイツの会社です。
本シリーズでは、ibidi 社の製品の「ここがすごい!」を紹介させていただきます。
第1弾の今回は、ibidi 社の多くの製品に共通する「ibidi ポリマー」に注目します。
ibidi ポリマーとは?
ibidi 社の主力製品である μ-Slide、μ-Dish、μ-Plate の底面に溶着されたカバースリップは ibidi ポリマーでできています。
ポリマー製にもかかわらず、カバーガラスと同等の光学特性(自家蛍光)、厚さ (180 μm + 10 /– 5 μm)、屈折率を持ち、カバーガラスでは難しい細胞接着性(親水性)とガス透過性を備えたまさに顕微鏡での細胞観察に最適なカバースリップです。
μ-Dish(プラスチックボトムディッシュ) | 一般的なカルチャーディッシュ | |
細胞名:初代培養ラット大脳皮質アストロサイト 抗GFAP抗体(1: 4000)で染色 |
光の透過性
底面に使用される材料の透過性は、顕微鏡観察において重要なパラメータです。 光が底面で吸収されるほど、蛍光励起およびその画像取得が影響を受けてしまいます。
顕微鏡を用いた様々なアプリケーションに適するためには、底面材料が様々な波長にわたり高い透過能力を有することが必要です。
図で示されているとおり、一般的に汎用されるポリスチレン(PS)製と異なり、ibidi ポリマー カバースリップは300 nm 以下(紫外線領域)も含む、幅広い波長において透過性を有しています。
自家蛍光
自家蛍光は、蛍光イメージングで観察される「蛍光標識したサンプル」由来の目的の蛍光シグナルとは別に、材料(例えば、ibidi ポリマーやカバーガラス)自体から生じる固有の蛍光シグナルになります。
これは、蛍光イメージング観察においては、自家蛍光がノイズやバックグラウンドとして、S/N 比(Signal-to-Noise Ratio )に影響する可能性があります。
特に僅かな蛍光シグナルを検出してイメージングする際に、この自家蛍光が妨げになることがあります。
全ての材料や培地はある程度の自家蛍光を示しますが、これは材料の種類に強く依存し、また、蛍光検出時の励起/検出波長の種類によっても異なります。
ibidi ポリマー カバースリップは、一般的なガラス製カバースリップと同様に自家蛍光が非常に低いのが特長です。
自家蛍光はS/N比(Signal-to-Noise Ratio )に影響します | |
μ-Dish(プラスチックボトムディッシュ) | 一般的なカルチャーディッシュ |
細胞名:初代培養ラット大脳皮質アストロサイト |
初代培養ラット大脳皮質アストロサイトのカルシウムイメージング(Fura-2法)
厚み
底面カバーガラスの厚みは、イメージングの品質を決定する重要なパラメータです。
顕微鏡イメージングに使用される対物レンズのほとんどは、標準的なカバーガラスの厚み0.17 mm(170 μm +20 / –10 μm、#1.5)に適するよう調整されています。
「より薄い」または「より厚い」底面カバーガラスの場合、球面収差や色収差によるぼやけた画像の形成を防ぐために、対物レンズ上で補正環(Correction collar)の使用が必要とされます。
ibidi ポリマー カバースリップは ibidi 社製 μ-Slide、μ-Dish、および μ-Plate 製品において、標準的な底面フィルムとして使用されています。
180 μm(+ 10 / – 5 μm)の厚みを持つ ibidi ポリマー カバースリップは、倒立型高解像度顕微鏡に使用するために理想的な必要条件を備えています。
屈折率
屈折率nD は、「特定の材料中の光の速度」を「絶対真空中の光の速度」と比較した値として測定されます。
それは開口数(NA:numerical aperture)を計算するのに重要な値となります。
屈折率は次式で定義されます:nD = c /η
c = 真空における光の速度
η = 特定の材料中の光の速度
屈折率はしばしば「光学密度」とも呼ばれます。
ほとんどの対物レンズは、ガラスや ibidi ポリマー カバースリップなど、標準の屈折率が1.52の底面材料を使用するように設計されています。
そのため、油浸対物レンズで使用される油浸オイル(immersion oil)も1.52 の屈折率を持っています。
マテリアル | 屈折率 |
---|---|
Vacuum | 1 (by definition) |
Air | 1.0003 |
Water | 1.33 |
Glycerol | 1.47 |
Immersion oil | 1.52 |
Glass coverslip | 1.52 |
ibidi ポリマー カバースリップ includes ibiTreat, Uncoated and Bioinert |
1.52 |
異なる底面材料による顕微鏡観察パラメータの違い
マテリアル | カバースリップの厚み | 屈折率nD (589 nm) | 自家蛍光 | Abbe Number |
---|---|---|---|---|
ibidi ポリマー カバースリップ incl. ibiTreat, Uncoated and Bioinert |
#1.5 (180 μm +10/–5 μm) |
1.52 | Low | 56 |
ibidi Glass Coverslip D 263 M |
#1.5H (170 μm +/–5 μm) |
1.52 | Low | 55 |
Standard glass coverslip | #1.5 (170 μm +20/–10 μm) |
1.52 | Low | 55 |
Polystyrene (standard Petri Dishes and culture flasks) |
Various (typically 1 mm) |
1.56 | High | 53 |
ibiTreat(イビトリート)
直接、接着細胞を培養可能 *コーティングも可能
ibiTreat 製品は、ほとんどの接着細胞において、追加のコーティングを必要とせずに良好に培養できます。
このため、ibiTreat は最も推奨される表面処理となります。
ibiTreat は、ibidi ポリマー カバーガラスに対して親水性の組織培養処理を施したバージョンです。
この物理的表面処理は、標準的な細胞培養容器の組織培養処理と同じく、培養表面を親水性にするため、ほとんど全ての接着細胞に適用可能です。
ibiTreat 製品は10,000以上の参考文献に掲載されています。
μ-Slide(ibiTreat)への細胞接着性は、血流のshear stress(せん断応力)をシミュレートする灌流培養実験においても、十分な接着力を示します。
静置培養の結果 | 灌流培養の結果 灌流の方向は→ |
細胞名 :HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞, Passage 5) 蛍光染色試薬 :(核) NucBlue® Fixed Cell ReadyProbes®(DAPI)(ThermoFisher) (F-actin)ActinRed™ 555 ReadyProbes® Reagent(ThermoFisher) (VE-Cadherin) Mouse anti human CD144(BD Pharmingen), Anti-mouse antibod (Alexa Fluor® 488)(ThermoFisher) |
HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)の灌流(perfusion)アッセイおよび免疫蛍光染色による細胞観察
様々な光学顕微鏡観察方法に対する底面材料の適合表
ibidi ポリマー カバースリップ |
ibidi Glass カバースリップ |
Standard Polystyrene Plates and Dishes |
|
---|---|---|---|
Phase contrast / 位相差顕微鏡 |
++ | ++ | ++ |
Differential Interference Contrast(DIC) / 微分干渉顕微鏡 |
++ | ++ | ー |
Widefield Fluorescence / Wide-field型蛍光顕微鏡 |
++ | ++ | ー |
Confocal Microscopy / 共焦点顕微鏡 |
++ | ++ | ー |
Tow-Photon and Multiphoton Microscopy / 2光子/多光子励起顕微鏡 |
++ | ++ | ー |
Fluorescence Recovery After Photobleaching(FRAP) / FRAP顕微鏡 | ++ | ++ | ー |
Fluorescence Resonance Energy Transfer(FRET) / 共鳴エネルギー遷移顕微鏡 |
++ | ++ | ー |
Fluorescence Lifetime Imaging Microscopy(FLIM) / 蛍光寿命イメージング顕微鏡 |
++ | ++ | ー |
Total Internal Reflection Fluorescence(TIRF) / 全反射照明蛍光顕微鏡 |
+ | ++ | ー |
Super-Resolution Microscopy / 超解像顕微鏡 |
+ | ++ | ー |
ibidi ポリマー カバーガラスが使用されている製品
製品名 | 製品 | 製品詳細ページ |
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μ-Dish 35mm, High 細胞培養用プラスチックフィルムボトムディッシュ |
こちら | |
μ-Dish 35mm, Low 細胞培養用プラスチックフィルムボトムディッシュ |
こちら | |
μ-Dish 35mm, Grid-500 タイムラプスに最適 |
こちら | |
μ-Dish 35mm, Quad 同時に複数のウェルにて均一な細胞培養が可能 |
こちら | |
Culture-Insert in μ-Dish 35mm 創傷治癒、細胞間相互作用 |
こちら |
これを機会に細胞を観察する容器にも注目してみてください!
容器を変えるともっともっときれいな写真や画像が撮れるかもしれません。