第十四回 リンドバーグからのメッセージ

塩田先生コラム 第九回
塩田 邦郎 先生のご紹介

東京大学名誉教授

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第十四回 リンドバーグからのメッセージ

 7~8月にはヨーロッパの共同研究者としばらく連絡が取れないことは珍しくなかった。“審査員が休暇だ”とか、“編集者が不在だ”とかで、この時期にはヨーロッパの専門誌への論文投稿を見送ることもあった。バカンスは19世紀後半にフランスで始まり、今ではヨーロッパ社会全体に広がったという。

 私たちはバカンスを前提とした働き方を羨ましく思いながら、今年5月の10連休では“長すぎて困った”という声に半分納得している。せっかくの休みなのだが、長期休暇に戸惑い“その日暮らし”の毎日に戻ることに、どこかほっとしている様子だ。“その日暮らし”とは、⑴その日その日の収入で毎日をやっと暮らすこと。経済的に余裕の無い生活、⑵予定も計画もなしに1日1日をすごしてしまうこと(広辞苑第6版)、とある。

 私たちの体は高度に専門化した細胞集団から構成されている。その日暮らしをする短命の細胞や、寿命の長い細胞など、それぞれが役割を分担しているのだ。受精卵から最終的に数十兆個の専門化した細胞集団が出来上がるとき、各細胞の置かれた環境(栄養や酸素分圧、あるいは他の細胞からの化学的・物理的影響など)に反応して、細胞の種類に独自のエピジェネティクス模様が作り出される(第5回12回)。それにより、特定遺伝子(群)や非遺伝子領域が選択され、私たちのからだが出来上がってくるのだ。

 また、エピジェネティクスはゲノムDNAの安定性や外来遺伝子や可動性遺伝子などの封じ込めも担い、進化の方向を左右する要因の1つでもある(第6回10回)。私たちは生き延びた稀な生命の1つで、進化に失敗し消え去った生命のほうがむしろ多かったはずだ。30億年の生命系譜の中で、工夫が功を奏したまたま生き延びたのが現存する生物だ。

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