第五十六回 研究費(1)梅の便り

東大名誉教授・塩田邦郎先生コラム「エピジェネティクスの交差点」
塩田 邦郎 先生のご紹介

東京大学名誉教授

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より現在まで東京大学(農学生命科学研究科)、2016年から2020年まで早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第五十六回 梅の便り

 

 紅梅が咲き始めている。この辺では白梅は少し遅く咲く。梅の花で思い出すことがある。「研究室は“一将功成りて万骨枯る”ではだめ。学生・院生がそれぞれポツポツと花を咲かせられなければね」とは、大学院時代の指導教官、鈴木善祐教授の口癖だった。

 鈴木先生のもとで科学(サイエンス)の世界に入れたことは幸運だったと思う。当時は血中のホルモンなど微量の生理活性物質を測定する放射線免疫測定法 (Radioimmunoassay)の黎明期であった。鈴木研究室ではフォード財団の大型予算の獲得に成功し、高価なシンチレーションカウンターやガンマカウンターまで保有していた。1970年代はじめのことである。

 科学自体は楽しいものだ。しかし、毎日が楽しかったか?と問われると返事に詰まる。科学の“謎解き”は楽しいに違いないが、自分で研究室を預かってからは研究費の獲得に悩まされてきたからだ。「自由に研究したいから大学に職を得たい」と学生・院生が相談に来ることがあった。確かに大学ではどのような研究でも自由に選べる。ただし自分で研究費を獲得することが前提となる。

 研究にはお金がかかる。例えば、制限酵素、逆転写酵素など各種酵素やホルモン、成長因子など数万円単位だ。それら試薬と反応液を組み合わせたキットとなると10万円以上、さらにピペットチップ、試験管、培養容器、ゴム手袋など諸々の消耗品で学生一人につき年間100万円程度は必要になる。実験動物の飼育などの経費もかさむ。10名程度のメンバーでもこれらで年に1,000万円となる。

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