【製品性能評価】VisiBlue™ qPCR mix colorant 製品評価

日本ジェネティクスのテクニカルノートとは?

発売したばかりの新製品の性能評価や、既存製品の最適な条件を追求するための条件検討をすることでお客様に心からご納得頂いた上で商品をお使い頂けるよう、様々な評価試験を行っています。
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テクニカルノート2018<08>
評価製品:VisiBlue™ qPCR mix colorant(Cat No.TT-K101a)

目的

qPCR反応液染色試薬VisiBlue™を用いたときに、qPCR測定にどのような影響があるのか試験する。

背景

VisiBlue™ qPCR mix colorant(VisiBlue™)は、qPCR用に開発された青色の反応液染色色素であり、透明のqPCR溶液に使用することで、作業効率アップやミス低減が期待される。特に、白色プレートを用いる時など、目視で確認しにくく、ハンドリングが難しい場面では有用である。一方で、PCR溶液に添加物を加えることは、PCR反応を阻害したり、検出へ悪影響が起こるリスクを抱えている。特に、VisiBlue™のような青色色素は、500 nm以上の吸収波長領域を持つことから、500 nm以上の領域の蛍光シグナル強度が低下することが予想され、この蛍光シグナル低下に付随する測定精度の低下が危惧される。 蛍光標識スペクトル
メリット
• 視認性向上
 → 作業効率UP、
   作業ミス抑止
リスク
• 試薬添加に伴うPCR反応の阻害
• 蛍光シグナル低下
 → PCRの測定精度低下

評価方法

VisiBlue™添加したPCR溶液を使用し、PCRで用いられる代表的な検出法である(1)SYBR Green法と(2)加水分解プローブ法でDNA量の検量線を作成することにより、PCR効率、qPCR精度への影響を比較した。なお、加水分解プローブ法を用いたqPCR測定は、3種の蛍光色素(①X-rhodamine: ROX、②Floresein: FAM、③Cyanine5: Cy5)をそれぞれ用いた。

 

VisiBlue™qPCR master mix colorant 

qPCR溶液 [特長]
1.使用方法はqPCR反応液に加えるのみ
2.ご使用のqPCR反応液を扱いやすい青色に染色
3.チップ内の液残りを一目で判別可能
4.分注ミス抑止効果による精度の向上
5.SYBR Green法、加水分解プローブ法共に対応
  VisiBlue™

 

【 本資料で評価したqPCR法 】

• SYBR Green法
  SYBR GreenⅠ
• 加水分解プローブ法
  標識蛍光色素
   ① X-rhodamine(ROX)
   ② Floresein(FAM)
   ③ Cyanine5(Cy5)

【 本資料における評価項目 】

一般的な
qPCRの工程
VisiBlue™添加(+)、VisiBlue™添加なし(ー)でそれぞれ反応液を調製し、以下の項目について比較評価した。
 
評価項目 Page
サンプル調製(における視認性) 結果1 p.2
蛍光シグナル検出 結果2 p.2
解析 増幅曲線 結果3 p.3
Cq値 結果3-1 p.3
Cq値誤差 結果3-2 p.4
エンドポイント 結果3-3 p.4
エンドポイント誤差 結果3-3 p.4
増幅効率 結果4 p.5
融解曲線 結果5 p.5

【 使用装置・器具・試薬 】

● qPCR装置
LightCycler® 96 System(Roche, #05815916001)

<LightCycler® 96 Systemの励起波長・検出波長>

  励起波長 検出波長
SYBR Green I 470 nm 514 nm
ROX 577 nm 620 nm
FAM 470 nm 514 nm
Cy5 645 nm 697.5 nm
● 96 well 白色qPCRプレート
LightCycler® 480 multiwell plate(Roche, #04729692001)
● qPCR試薬
SYBR Green法:FastStart Essential DNA Green Master(Roche, #06402712001)
加水分解プローブ法:LightCycler® 480 Probes Master(Roche, #04707494001)
● qPCR反応条件
<補足情報に記載>
● qPCR反応液組成
<補足情報に記載>
※ VisiBlue™の詳細な使用方法は  ユーザーマニュアルをご覧ください。

 

結果1:視認性が向上する

96 well  VisiBlue™

見やすさが向上した。
担当者の感想
VisiBlue™ を添加することで、PCR溶液が一目でどこにあるのかわかるため、チューブ内で溶液が落ち切っていない場合や溶液の飛散がある場合にすぐ気付けます。そのため、VisiBlue™を使用することで、不慮の失敗やコンタミの抑止につながるのではないかと思います。
また、qPCRを経験した人ならば、PCRチューブに反応液を分注する時、時折、どこのウェルに入れたかを迷い、一瞬躊躇したことがあると思います。PCR溶液が色付きだとこのような心配がなく、他の作業ポイントに集中できるため、作業効率が上がりました。

結果2:Rawデータの蛍光シグナルは減少する

SYBR Green法:
Rawデータ
加水分解プローブ法:
Rawデータ
 
ROX
赤色:VisiBlue™(-)
水色:VisiBlue™(+)0.5倍量
青色:VisiBlue™(+)1倍量
FAM
 

Cy5

赤色:VisiBlue™(-)
青色:VisiBlue™(+)

結果3:増幅曲線が変化する

SYBR Green法:
増幅曲線
加水分解プローブ法:
増幅曲線
 
ROX
赤色:VisiBlue™(-)
水色:VisiBlue™(+)0.5倍量
青色:VisiBlue™(+)1倍量

Cq値への影響? → 結果3-1
Cq値精度への影響?→ 結果3-2
エンドポイントへの影響? → 結果3-3

 

VisiBlue™(-)とVisiBlue™(+)の増幅曲線は一致しなかった。

 

VisiBlue™(-)で取得したデータとVisiBlue™(+)で取得したデータを、同条件として扱うことはできない。

FAM

Cy5

赤色:VisiBlue™(-)
青色:VisiBlue™(+)

結果3-1:Cq値は変化する

SYBR Green法:
Cq値比較
加水分解プローブ法:
Cq値比較
   ROX
• SYBR Green法のCq値は大きく見積もられる傾向にあった。
• 加水分解プローブ法(ROX)は特定の傾向は見られなかった。
• 加水分解プローブ法(FAM)はCq値が小さく見積もられる傾向にあった。
• 加水分解プローブ法(Cy5)のCq値は大きく見積もられる傾向にあった。

 
Cq値変化は蛍光色素によって異なる。
FAM
Cy5

結果3-2:定量精度へは影響しない

SYBR Green法:
VisiBlue™添加量と誤差(Cq値)の比較
 
Cg値の誤差に対するVisiBlue™濃度依存的な影響は見られなかった。
少なくとも、今回、試験した条件下では、VisiBlue™添加による定量精度低下はない。

結果3-3:エンドポイントの値は変化する

加水分解プローブ法:
増幅曲線とエンドポイント値
ROX
 
FAM
 
Cy5
 
Ave.:平均 S.D.:標準偏差 C.V.:変動係数
いずれのプローブでも、エンドポイントは低下した。
しかし、エンドポイント誤差の値に顕著な差はみられなかった。

 
エンドポイント定量精度に影響を与えないことを意味している。

結果4: 増幅効率は減少しない

SYBR Green法:
VisiBlue™添加量と検量線の変
SYBR Green法:
VisiBlue™添加量とPCR増幅効率の比較
 
VisiBlue™ (-) (+)
0.5倍量
(+)
1.0倍量
PCR効率 1.90 1.91 1.94
R^2 1.00 0.99 0.99
VisiBlue™添加によるPCR効率の減少はない。

 
VisiBlue™はPCR反応の阻害物質ではないことを意味している。
加水分解プローブ法:
検量線とPCR増幅効率
ROX

VisiBlue™ (-) (+)
増幅効率 1.94 1.99
R^2 1.00 1.00
FAM
VisiBlue™ (-) (+)
増幅効率 1.78 1.78
R^2 0.99 1.00
Cy5
VisiBlue™ (-) (+)
増幅効率 1.84 1.86
R^2 1.00 1.00
他の蛍光色素においてもPCR増幅効率の顕著な減少は見られなかった。

 
VisiBlue™が適応できるPCR増幅検出用蛍光色素の幅が広いことを意味している。

結果5: 融解曲線のピーク温度は変化しない

SYBR Green法:
PCR産物の融解曲線解析
VisiBlue™添加によりPCR副産物は増加しない。

結 論

qPCRの行程 VisiBlue™添加の効果 コメント
サンプル調製 結果1 非常に見やすい  
蛍光シグナル検出 結果2 減少する  
解析 増幅曲線 結果3 変化する 用いる蛍光色素により影響が異なる。
Cq値 結果3-1 変化する VisiBlue™を添加した場合と添加していない場合では、Cq値を比較することができない。
Cq値誤差 結果3-2 影響を受けない  
エンドポイント 結果3-3 低下する VisiBlue™を添加した場合と添加していない場合では、エンドポイントを比較することができない。
エンドポイント誤差 結果3-3 影響を受けない  
増幅効率 結果4 低下しない VisiBlue™はPCR反応を阻害しない。
融解曲線 結果5 融解曲線のピーク
温度は変化しない
 
  従って
• VisiBlue™は測定精度に影響なくqPCR を行うことができ、視認性向上に伴うメリットが期待できる。
• 複数の蛍光色素の測定精度に影響を及ぼさなかったことから、より多くの蛍光色素を用いたqPCR にVisiBlue™が使用できると期待される。
メリット
• 視認性向上
 → 作業効率UP、作業ミス抑止【結果1】
リスク
• 試薬添加に伴うPCR反応の阻害【結果4, 5】
• 蛍光シグナル低下
 → PCRの測定精度低下【結果2, 3-2】

補足情報

S1. SYBR Green 法 PCR 条件
● PCR プライマー
  hACTB Forward and Reverse mix(5 μM to each)
   Forwaed :TCACCCACACTGTGCCCATCTACGA
   Reverese :CAGCGGAACCGCTCATTGCCAATGG

● PCR テンプレート
  Human Genomic DNA Standard dilution series
  (200 μg/μL をTE にて希釈, Roche: 11 691 112 001)

● PCR 反応液組成

  VisiBlue™(-) VisiBlue™(+)
0.5倍量
VisiBlue™(+)
1倍量
7.60 μL 7.60 μL 7.60 μL
FastStart Essential DNA Green Master 10.00 μL 9.88 μL 9.75 μL
PCR プライマー 0.40 μL 0.40 μL 0.40 μL
VisiBlue™ 0.13 μL 0.40 μL
Human Genomic DNA 2.00 μL 2.00 μL 2.00 μL
PCR.sol/tube 20.00 μL 20.00 μL 20.00 μL

※各3反復独立に調製

● PCR 条件

S2. ROX 標識加水分解プローブ法 PCR 条件
● PCR プライマー
  COG2F: CARGARBCNATGTTYAGRTGGATGAG
  COG2R: TCGACGCCATCTTCATTCACA
  ALP F: TTTGAGTCCATGTACAAGTGGATGCG
  加水分解プローブ: ROX-TGG GAG GGS GAT CGC RAT CT-BHQ2

● PCR テンプレート
  Synthetic Noro Virus G2 cDNA
  (2.99 μg/μL相当を TEにて希釈 ,自家調整)

● PCR 反応液組成

  VisiBlue™(-) VisiBlue™(+)
5.14 μL 5.14 μL
LightCycler® 480 Probes Master 10.00 μL 9.75 μL
10 μM primer COG2F 0.80 μL 0.80 μL
10 μM primer COG2R 0.80 μL 0.80 μL
10 μM primer ALP F 0.80 μL 0.80 μL
10 μM taqman probe RING2AL-TP 0.46 μL 0.46 μL
VisiBlue™ 0.25 μL
cDNA cording G1 2.00 μL 2.00 μL
PCR.sol/tube 20.00 μL 20.00 μL

※各3反復独立に調製

● PCR 条件

S3. FAM、Cy5 標識加水分解プローブ法 PCR 条件
● PCR プライマー
  16S rRNA-F: CCTCTTGCCATCGGATGTG
  16S rRNA-R: GGCTGGTCATCCTCTCAGACC
  FAM 標識加水分解プローブ16S rRNA: FAM-GTGGGGTAACGGCTCACCTAGGCGAC-BHQ1
  Cy5 標識加水分解プローブ16S rRNA: Cy5-GTGGGGTAACGGCTCACCTAGGCGAC-BHQ3

● PCR テンプレート
  E. Coli Genomic DNA
  (0.27 μg/μL相当を TEにて希釈 ,自家調整)
● PCR 反応液組成

  VisiBlue™(-) VisiBlue™(+)
7.16 μL 7.16 μL
LightCycler® 480 Probes Master 10.00 μL 9.75 μL
10 μM primer 16S rRNA-F 0.32 μL 0.32 μL
10 μM primer 16S rRNA-F 0.32 μL 0.32 μL
10 μM 加水分解プローブ16S rRNA 0.20 μL 0.20 μL
VisiBlue™ 0.25 μL
E.Coli Genomic DNA 2.00 μL 2.00 μL
PCR.sol/tube 20.00 μL 20.00 μL

※各3反復独立に調製

● PCR 条件

 
 


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