第七回 小林秀雄の時代とプレシジョンメディシン

塩田先生コラム 第八回
 
塩田 邦郎先生のご紹介
早稲田大学 理工学術院総合研究所 客員上級研究員・客員研究院教授
(東京大学名誉教授)

1979年より製薬会社中央研究所、1987年より東京大学(農学生命科学研究科)、2016年からは早稲田大学にて研究されてきた。素朴な生物学の影を残した時代から、全生物のゲノム情報を含む生命科学の基礎と産業応用の飛躍の時代になった。本コラムでは大学や企業での経験も交えながら、専門分野のエピジェネティクスを含めた自由な展開をお願いしました。


第七回 小林秀雄の時代とプレシジョンメディシン

 大阪での“プレシジョンメディシン”シンポジウムに参加した際、質疑応答を聞きながら、ふと評論家の小林秀雄の、少し甲高い声を思い出した。小林秀雄(1902-1983)は、日本を代表する評論家で「本居宣長」、「ゴッホの手紙」、「考えるヒント」、「ドストエフスキーの生活」など多数の著書があり、学生時代にこれらの書籍を通じて接した方も多いと思う。

 手元に2004年1月に発行された小林秀雄講演集CD(第1巻〜7巻:新潮社)がある。1960年代から〜1980年代の日本各地での講演記録である。小林秀雄のやや高い独特の抑揚の喋り方で、「年には功がある」、「精神と肉体の関係」、「直感から分析への道」など、魅力ある講演が詰まっている。

 小林秀雄は、1960年8月の長崎雲仙での講演(第一巻、文学の雑感)で「私は胃が悪くてね。コレステロールも高い。先日、友人である“がんセンターのY”がうるさく私にがんの検査を薦めたので、しかたなく調べてもらったが、何でもなかった。医者は健康診断で生きており、病気を治して生きているのでない・・」と、医療への小言とタバコを止めた経験談などを話し始めた。そして「クスリの話」で老舗大手製薬会社の研究所長との談話を「ニンジンは様々な病気の治療薬としてギリシャの昔から世界で用いられており、特に漢方では重用された。”腹下し”にも”便通”にも効いた。ところが、分析が進んだ結果、”下痢”と”便秘”に効果のある各成分が分かり、他の重要な成分が捨てられてしまったから、何にでも効くというわけにはいかない!。今のクスリは、ピストルのように当たればパーンと効く、しかし、当たらなけらば全然ダメ」と紹介し、万能薬の古き良き時代、融通の利かない専門薬への時代の雑感と共に話は展開していく。

 この数年間、専門誌ではプレシジョンメディシン(Precision Medicine)(プレシジョン医療)特集が組まれ、ゲノム医療”や“ゲノムがん治療”としても新聞等で紹介されるなど賑やかである。精密・正確を意味するPrecisionについて、古い辞書の用例に、Precision engineering(精密工学)が載っている。プレシジョンメディシンは、精密医療、もしくは、正確医療となる。何が精密・正確になったのだろうか?これまでは正確ではなかったのだろうか?

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